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別に深い意味はない。




「……なんか今日の藤島、いつもの百倍増しで可愛い……」


「キモイからじろじろ見ないで」


「髪縛ってるの超グッとくる」


「別にあんたのために縛ってきたわけじゃない」




ただ暑いからだ。それだけだ。



――8月初めの日、左耳の下でくくった自分の黒髪を手ぐしで梳かしながら、どこか落ち着かない気持ちで早川を睨みつけた。



待ち合わせた遊園地の最寄り駅で見つけた今日の早川こそ、いつもとちょっと違って見える。


学校以外の場所で二人で会うのは初めてだからかもしれない。


この前の映画は、川端さんや翔くんがいたし。



私服のセンスが良くて、周りの人がこっちをちらちら見てるのを感じる。早川はスタイルもいいから。


連れて歩くには申し分ない容姿。もし変な着ぐるみとかで登場されたら即殺してやろうと思ってた。


本人は気付いていないのか単に慣れているのか、周囲の視線は特に気にしてないみたいだけど。


むしろ気にしろって感じだけど。


帰りたい、嗚呼帰りたい、帰りたい。一句出来た。