「――あ、いた。藤島!」
「……っ」
え、なに?
それまで静かな空間にいて、急に大声で呼ばれたからびっくりして体がびくっと勝手に動く。
慌てて顔を上げれば、川端さんが出て行った扉から入ってきた早川が、素早い身のこなしで私の真ん前までやってきた。
……げえええ、なんでこいつこんなタイミング良く……! じゃ、ない。悪く。
人が感傷的になってるときに、わざわざ。
「……な、なんであんたが来るの……っ」
「泣いてる?」
「はあ!? なんで私がよ……馬鹿じゃないの」
「嘘つけ」
「や、ちょ……っ、死ね!」
目を合わせたくなくてそらしたのに、わざわざ屈んで身長差を埋めてまで、私の顔を覗きこんできた早川に焦る。
「……なんだ、泣いてなかった」
「あ、当たり前だ……!」
誰が泣くか、こんなところで。こんなことくらいで。

