プルルルルル
部屋に鳴り響く電話の音。
1台ではなかった。
今日はいつも以上に通報の数が多い。
数が多いことも問題だが、実際はその内容の方が問題だった。
『もしもし?ねぇ、爪!爪が割れちゃったのよ!』
「…はい?」
『つ、め!もう血が止まらなくて…!救急車ってこちらに電話すればいいのよね?』
「あー…。いや、そういう件でしたら、直接救急病院の方におかけになった方が…』
『えぇ?呼んでくれないの?こちらにかければ確かって聞いたんだけど』
「そういう場合は本当に緊急の際の対応に限られておりまして。奥様の場合は…その…」
『はぁ?何よ。十分緊急事態じゃない?そんなことあなたが決めることじゃないわよね』
「そういわれましても…」
『はぁ…。もういいわ、らちがあかない。もうちょーっと親身に対応してくれてもいいんじゃないの?!」
「はは…」
ブチッ
スピーカーから回線の切られる音がした。
電話から耳を離して聞いていたため、その音にビクつかなくてすんだことが唯一の幸いだった。
電話を親機に置きながら、鹿島優(かしますぐる)はふぅっと本日何回目かの溜め息をついた。