思い出した…あの時に会った子がララだったのか。

〜鳴夜5歳、上海に住んでいた頃〜

『うぇ…ん…ぐすっ…ヤダヤダ!!ニホンに行きたくないっ!ここに残るぅ…』

愚図る鳴夜に困る両親。

『鳴夜(ミンエイ)…パパはここで仕事しなきゃいけないんだ。パパだって、鳴夜と離れるのはもちろん寂しいよ。それに仕事が落ち着き次第、日本へすぐに会いに行くから……鳴夜!!』

鳴夜は父の話を聞かず、そのまま外に駆け出した。

初めて父に反抗した。

仕事仕事…遊びに行こうとした約束した日も、結局仕事が入り、『また今度』…

今日は久しぶりに家に帰って来たらと思ったら、日本へ『僕だけ』が引っ越さなきゃならない。

しかも、ずっと……

パパもママもいない見知らぬ土地と人に囲まれて。

とてもじゃないけど、耐えられない。

『はぁはぁ…』

何も考えず、来た場所は全く知らない道だった。

辺りは静寂で、今にもきれそうな街灯がチカチカと情けない光で、鳴夜の頭上を微かに照らしていた。

一気に不安になった鳴夜は慌てて、元来た道から帰ろうとしたが、暗闇で道はかき消されていた。

『………』

無言になり、その場に座り込む。

『…っ……』

涙が溢れ、嗚咽が止まらない。

ザッザッ…

人の足音が近づいてきた。

とっさに服で顔を隠した。

ザッ…

足音が自分がいるところで止んだ。

涙と鼻水で、くしゃくしゃになった顔に誰かが覗き込む。

『どうしたの?迷子?』

そう尋ねながら、手を差し伸ばしてきた。

そして、恐る恐る顔を上げた。

『ひっ…!おばけぇぇ!!!』

一気に腰が砕け、悲鳴を上げた。

無理もない…。

相手は、黒い目出し帽に黒のサングラス、上下黒のジャージ姿だった。

例えるなら、某アニメの全身黒づくめの犯人だろう。

『おばけ?…あ。ごめんね。すっかり忘れてた。』

そう言い、相手は後ろを向き、何かをとって再び鳴夜に振り向いた。

そこに現れたのは、先ほどとはガラリと違う印象の少女が立っていた。

暗闇で、なお一層と輝く金髪に青い目を持つ美しい少女がいた。

少女は鳴夜の隣に座る。

『これで怖くない?』

『う…うん。』

優しい笑顔に、鳴夜は戸惑いを隠せなかった。

『ちょっとだけ、手を貸して。』

少女は鳴夜の手をそっと掴み、目を閉じた。

思わず、赤面する鳴夜。

しばらくすると、少女が目をゆっくりと開けて尋ねた。

『…なるほど。お父さんと喧嘩して、ここまで来ちゃったんだ。それと大きな悩み事があるんでしょう?どう?ズバリ合ってる?』

鳴夜は驚きつつも、頷いた。

『なんで…知ってるの?』

『それはね。私が…』

少女が何か喋りかけた時、いきなり土砂降りがきて、少女の言葉がかき消された。

少女はハッとして口をつぐみ、鳴夜の手を引き、少し走った場所にある屋根付きのベンチまで移動した。

鳴夜は息を整え、もう一度尋ねる。

『ごめん。さっきなんて言ったの?』

『…ううん。何も言ってないよ。あ!それより、名前はなんて言うの?』

少女は話題をすり替えた。

鳴夜はそれに気づき、それ以上は追求はしてはいけないと悟り、少女に話を合わせた。

それからは、他愛のない話や互いの事を話したりして、会話を弾ました。

いつの間にか、かなりの時が経っていたようだ。

遠くの方から、鳴夜を呼ぶ声が聞こえた。

『…お迎えが来たね。さあ、早く行ってあげて。かなり心配しているよ。』

『うん…』

鳴夜は声の方に歩き出し、ふいに止まり、振り向いた。

『…僕、君の名前を聞いてないよ。教えて…?』

振り向く先に、ベンチに座る少女の姿はなかった。

辺りも見渡したが、それらしい人影もなかった。

その後、日本に行くまでの間に何度も同じ場所へ足を運んだが、少女には再び会うことはなかった。

そして、時が流れ、現在に至る。