高校の教師を生業として今年でもう10年。

当初は現場の生きた雰囲気に混乱ばかりをして、果たして私はこの教師という職に水が合っているのか?などと自問自答を繰り返し、ふっと辞めてしまおうかとまで思ったものだが、3年目には、案外なんとかなるものかもしれないと思い、5年目には職に対する責任が芽生え、10年目の今年にもなると、周りのクラスを気にする余裕さえ出てきた。

堅苦しかっただけの授業も、今は雑談混じりだ。

これが、やってる私も中々楽しく、まるで退屈をしていない。生徒たちも肩の力を抜いて、しかし積極的に授業を聞いてくれている。

私が教えているのは国語だったが、昨年の新学期に生徒達の間で「お前、国語は誰だった?…新田?いいなあ~」なんて会話を、廊下でたまたま聞いた時は、迷いも晴れ、この職を選んで本当に良かったと、心から思ったものだ。

この様に仕事がストレスになることは無かったから、生活も非常に安定していた。金銭的にも何一つ不自由はなかった。

足らない事と言えば、出会いが無く、32にもなり、未だ奥さんがいないことだろうか?

それでも私は、結婚願望が特に強い訳では無く、恋愛という出会いではないこそ、人間としての出会いであれば、一年ごとにたくさんの新しい顔に巡り合うこの職は、かなり出会いに恵まれているだろう。

ひたむきな高校生たちは可愛く、一人身の寂しさも、彼らと向き合う日常の中に全て消えていった。