「俺たちからしたら、大したことだ」
“俺たち“が誰を指しているのかはすぐに分かった。
千春ちゃんと千夏君の事ね。でも、大したことって、どういう事なんだろう。
「俺たちの両親は他界している、それは先程話したな」
「うん、聞いたよ」
うん、聞いた。私が無神経にも言わせてしまったんだけど。罪悪感で、胸がチクリと痛む。
「ここで、料理を作るのは俺だけだったから、他の誰かが俺たちの為に料理を作ってくれるなんて、夢かと思った」
「まーくん………あの、またズケズケとって思うかもしれないけど、面倒見てくれる大人は……?」
まさかだけど、さっきからこの家で大人の姿を見かけない。まるで、最初から三人しかいなかったのように。
「一応、祖母がいるんだが、両親とはあまり仲が良くなくてな、疎遠状態だ。3年前に両親が他界してからは、ずっと三人で生きていた」
「嘘っ………だって、まーくんだって……」
まだ高校生だ。誰かに守られるべき存在なのに………それも、まだ小さい千春ちゃんと千夏くん達を育てながらなんて…
「なのに、私の事まで守ろうなんて……」
「るな殿は、そんな俺の心をあの一瞬で救ってくれた。本当に感謝している。だから、守りたい、そう思った」
小さく笑うまーくんに、私は言葉を失う。
私より、多くの苦しみと痛みを抱えるまーくん。でも、高校生とは思えないほど、大人びて見えた。
そっか、甘え方を知らないんだ。ううん、甘える人も、そんな余裕も無かった。千春ちゃんと千夏くんを守らなきゃいけなかったから……


