バンドマン



始まってから前半はあまり覚えてない。

ただただみんなの振動に合わせてリズムを取らないと埋まっていきそうで必死にリズムを取った。

そして、目の前にはこんなに近くにいるのにまるで異世界にいるようなスポットライトを浴びている4人の『バンドマン』が居た。

もう、そろそろ限界かも…。
ちょっと後ろで休みたいな。

隣を見ると李帆はテンションマックスで、

多分声をかけてもきこえないな。

そう思って私は1人壁側をつたって必死の思いで一番後ろに出た。

た、助かった…。

熱気が尋常じゃない。
なんなROCKというものに酔いしれている。

ここまで好きだったらこんな暑さものにしないんだろな…。

みんなの熱気に圧倒され、壁に寄りかかっていると、

「あれ、李帆ちゃん!」

後ろからお酒片手にもう限界かー?なんて笑いながら歩いてくるリンジさんが話しかけてきてくれた。

「ちょっと熱気にやられちゃいました。」

私は思わず苦笑いを浮かべてリンジさんに答える。

「まぁみんなROCK馬鹿だからなぁ。みんな疲れなんてものにもしないんだよ。」

満足気に話してくれるリンジさんもどこかすごく楽しそうで、羨ましくなってしまう。

「李帆ちゃん?」

「はい。」

「今から出てくるバンドは初ライブなんだよ。」

「そうなんですか…?」

いきなりなんでこんな話を私にしてくるのか不思議だったけど少し真剣に話しだしたから黙っておこう。

「切ない感じの歌が多いバンドだからあまりライブハウスにはあまり良く思われなかったみたいでね。けどね。あの子達のパフォーマンスを見た瞬間僕は分かってしまったんだ。」

そこまで言って私の方に向き直して笑顔で1口酒を煽る。

動作が1つ1つ綺麗で見惚れてしまいそうだ。

「本心を歌ってるんだなって。ただ切ないものばかり歌ってるんじゃなく本心を全てぶつけている。ただ熱いだけじゃない。それでこそROCKだって思ってしまったんだよね。」

ライブハウスを盛り上げる側の人間がなにゆってんだろーねーなんて言ってすぐにさっきまでのへらへらリンジさんに戻ってしまった。

「うぶなんだよねー。そう、李帆ちゃんみたいにさ。」

微かに聞こえてきた声に反応しようとした時にはもうリンジさんは前に歩き出してしまっていた。

どういうことなんだろ。