猫の恩返し

「トーゴ」


名前を呼ばれ、ふと我に返る

自分の名前を女の子に呼ばれるのは、どれぐらい振りだろう

改めて考えてみても、すぐには思い出せない


職場では、皆名字で呼ぶからな…


一気に現実に引き戻された

ただでさえ忙しいのに、突然休んだしわ寄せが他に行くのは目に見えている

それでも…ナツを放置して仕事に行けなかった


明日、皆に謝るか…


「トーゴ!」


また自分の世界に入っていたことに気付く

普段はこの部屋に一人だから、誰かと喋ることもない

自分だけしか存在しないはずのこの部屋に、猫だと言うナツが居る

でも、現に昨日の黒猫は居ないわけだし、ナツの行動は猫みたいだ


「どうした?」


「お腹空いた」


自分のお腹を両手で押さえ、空腹を訴えるナツ