猫の恩返し

服の裾がツンとなって思わず振り返ると、湯船からナツの手が伸びていた

白い肌が湯に濡れ、ツヤツヤと輝いている


「………」


「………」


お互い目を見たまま何も発せず、しばらく沈黙が続いた


「風邪…引くから…」


そう言って躱(かわ)そうとすると


「何で?何がダメなの?」


ストレートな言葉をぶつけられる


「だから狭いっ───」


「狭くなかったら入った?」


「………うん」


嘘を吐くことが後ろめたくなって…

ナツの目をまっすぐ見ることが出来なくて、視線を外した


「…そっ………か…」


パチャンと音がして、ナツの手が湯船に滑り落ちる


「我儘…言って、ゴメンね…」


「いや…別に、気にしてないから」


これで………

これで…よかったんだ…


ギュッと締め付けられる心臓

嘘を吐くことが…

気持ちを抑えることが…

こんなに苦しいなんて、生まれて初めて知った