猫の恩返し

「公私混同は………今後するつもりない、から………。今だけ…お願い…、ね?」


書類を机に置き、立ち上がって俺の前まで歩いてきた


「………お願いというのは?」


署長命令だと言われれば仕方ない

半ば諦めムードで、目の前の雅美を見下ろす


「…抱き締めて…ほしいの…」


「は?」


触れてこようとする手を避(よ)け、後ろに下がった


「意味が分かりませんが…」


「意味なんかないの…。桐吾に………小岩井くんに、抱き締めてもらいたいだけ」


「………理解しかねます」


海で再会した時も少し話しただけ

そんな相手に『抱き締めてもらいたい』なんて、意味が分からない


「………桐吾…」


「名前で呼ばれる関係ではありませんので」


冷たく言い放っても、俺から視線を外そうとしない

あの時───

最後に雅美の部屋で睨み付けた時には、すぐに俺から視線を外したのに───