猫の恩返し

「何か分かんないけど、あの人好きじゃない」


プクッと頬を膨らませ、雅美の方を見るナツ

それを追うように視線を向けても、雅美の姿は人に紛れもう見えない


「気にすんなよ。お前にも俺にも関係ない奴だから」


ポンとナツの頭に手を乗せると『うん』という空返事が返ってきた


「トーゴ、行く!」


ナツが指したのは、海


何考えてんだ、コイツ…


「お前、さっき固まってただろ!シャワーでさえ暴れまくるくせに、海なんて入れるわけねーじゃん」


「行ーくーのーっ!」


「………はいはい」


せっかく砂浜に引きずり出したのに、自棄(やけ)になったナツに波打ち際まで引っ張られる


「う…うぅ………っ、やぁっ!」


波が押し寄せては浜に逃げ、引いた砂浜にまた足を伸ばし…と、格闘すること10分

ようやく両足を揃えて海に飛び込んだ時には、潮のせいで両膝までどっぷりと浸かる始末


「トーゴ!見て見てー!」


嬉しそうに両手を振るナツが大声で俺を呼ぶ

あまりに退屈なので、海の家で買った缶ビールを右手に持ち、空いた左手で手を振り返した