猫の恩返し

「それ、こっちのセリフ」


「そうね、懐かしい」


そう呟く雅美


「その子は桐吾の彼女?」


俺の腰にしがみ付いているナツに目を向ける

ナツの手に力がこもった感じがするのは気のせい…か?


「いや………。まあ…そんなトコ…」


何て返したらいいのか分からず適当に返事をしたら、その表情が曇った


「雅美は?」


髪を掻き上げた左手の薬指に指輪がないか確認する自分が情けない


「私も………そんなトコ。じゃ…相手が待ってるから」


その笑顔は少し憂いを帯びてて、あの頃の…自分に自信を持っていた彼女ではなかった


『あ』


そう呟き、歩みを止めて振り返った雅美


「まだ、あの時と同じ職場?」


「ああ」


「そう。それじゃあね」


何で今頃そんなこと気にするんだと思いつつ、立ち去る彼女の後ろ姿をジッと見送った