冷静で、出来のいい兄を持った弟として、思うところが色々あるようだった。
「ええ。今度のオルレアン行きもその兄の命なのです。バートとは別に行動するように、と……」
「それで、バートと別れたのか?」
「いえ、バートに先に別れを切り出されました」
「あいつ……! 大人だか何だかしらねぇけど、そりゃないよな!」
「初めてだったのに……」
「えっ……」
 衝撃の言葉を呟いて、涙をぽろりと流すシモーヌに、ジョルジュは慌てた。
「ええっと、その……」
「ほらよ、チーズ」
 その時、グッドタイミングでマスターが戻って来て、数種類のチーズを皿に載せて、シモーヌの前に置いた。
「ありがとうございます」
 そう言いながら、皿の上のチーズの欠片を口の中に入れるシモーヌの横顔を見ながら、ジョルジュはほっと溜息をついた。
 チラリと見たマスターとは既に目が合い、目だけで頷き合っていた。
「俺もオルレアンには行くからさ、又会えるよな?」
 それに安心したのか、彼がチーズをゆっくり食べているシモーヌにそう言うと、彼女の口が止まり、その目が大きく見開かれた。
「いや、別に、だからどうって訳じゃなくてさ、ただ、知り合いがいる方がいいかなと思っただけだよ。他意は……」
「これで最後になると思います。此処に来るのも」
 彼の方もマスターも見ずに、静かにそう言ったシモーヌに、今度はジョルジュが目を丸くした。
「何だよ、それ? 一度、召使みたいな東洋人の男が来たけど、まさかお前……」
「最後にここに来て、皆さんのお顔をもう一度見ておきたかったんです」
「死ぬつもりか?」
 彼女の言葉が終わらぬうちにジョルジュがそう言い、近くにいた者も思わず彼らを見た。
「いえ、それはありません」
「じゃあ、結婚するだけか?」
 その言葉に、再びシモーヌの動きが止まった。