「まぁ、気持ちは分かるが、あんまり飲み過ぎるなよ。じきに大きな戦いがあるらしいからな」
「オルレアンか?」
 そう尋ねるジョルジュの顔が、いつしか緊張していた。
「ああ」
「お前も行くのか?」
 彼がそう尋ねたのは、シモーヌだった。
「ええ、私も様子見だけでも行って来るようにと言われましたから……」
「バートにか?」
 その名に、一瞬、シモーヌの体が強張った。
「いえ……」
 そう答えるシモーヌの両瞳には涙が溜まってきていた。
「飲めよ」
 それで何となく二人の関係が終わりを告げたことを悟ったジョルジュは、そう言いながら、先程マスターが彼女の前に置いたグラスを彼女の方に押しやった。
「はい……」
 そう答えると、彼女はグラスの中に残っていた赤い液体を全て飲み干した。
「マスター、今度は水な」
 それを隣で見ていたジョルジュは、一瞬目を丸くした後で、マスターにそう言ったが、それをシモーヌの手が遮った。
「いえ、もう一杯お願いします。ちゃんとお支払しますから」
「でも、お前、一度にそんなに飲んだら……」
「チーズがあったら、少しお願いします」
 シモーヌはマスターにそう言うと、マスターは奥に入って行った。
「チーズも食べれば、悪酔いしないでしょう?」
「それはそうだけど……」
 そう言うと、ジョルジュは溜息をついた。
「何か、見ちゃいられねぇんだよな。無理してるのが丸わかりでよ」
「無理……ですか。でも、こういう生き方しか出来ないんです。物心ついた時から親代わりだった兄を裏切るようなことは出来ませんから……」
「兄貴か……」
 ジョルジュはそう言うと、苦笑した。