「――そんなことがあったのですか……。苦労したのですね」
 飾りやレースが少なめで、一見質素のように見えるが、実は仕立ても生地もしっかりしている真紅のドレス。それを身に纏ったシモーヌに、鎧は着ていないものの、傭兵と分かる格好のバートは、黙って頷いた。
「それで、バートもそのトゥールに同行してくれる、ということなのですね?」
 シモーヌのその言葉にバートは再び頷くと、彼女の姿を頭のてっぺんから足の先まで眺め回した。
「あの……似合いませんか?」
 そんな彼を見て、シモーヌがそう尋ねると、彼は首を横に振った。
「いや、似合ってる。とても綺麗だ」
 その言葉に、シモーヌの頬に赤みがさしたが、彼は残酷な言葉を続けたのだった。
「だからこそ、もう終わりだと実感したんだよ」
「終わり……?」
「もう一緒にはいられないんだろう? 俺と。蜜月も終わりということだな」
「そんな、バート!」
「じゃあ、一緒にトゥールへ行けるのか?」
「それは……」
 そう言うシモーヌは、彼と視線を合わせず、うつむいていた。
「最近、そういうドレス姿の時が多いよな。貴族令嬢としての仕事が増えたってことなんだろう。ってことは、傭兵なんかの俺とは、もう一緒にいられない」
「バート!」
 やっと顔を上げたシモーヌは、そう言うと、彼の胸を叩いた。
「どうしてそんな意地悪を言うの! 私の心は、とっくに貴方のものよ! それを分かっているはずでしょう? 夫婦の振りだってしたんだから!」
「楽しかったよ」
「バート……」
 目を丸くするシモーヌに、彼は背を向けた。
「乗りかかった船だし、もう仕事料も貰ってるから、あのお嬢ちゃんの警護はする。だが、もう他の所で会っても、あまり親しげにするなよ」
「バート!」
「俺は、バルテルミ・バレッタだ。お前の知ってるバートは、もうどこにもいない」
 そう言うと、彼はむこうに歩いて行ってしまった。「これでいいんだ」と、何度も自分自身に言い聞かせながら。