「大丈夫か?」
「わ、私は何とか……。でも、あの子は……」
 そう言って、ゆっくり立ち上がろうとしながら、シモーヌが馬を見ると、バートはそんな彼女を背にして庇いながら、叫んだ。
「馬鹿! 馬のことなんか、心配してる場合か!」
「でも、あれは、兄上から頂いた子ですので……」
「そんなことより、自分のことを心配しろ、馬鹿!」
「私……ですか?」
 そう言いながら立ち上がった彼女の目には、一台だけ残った荷馬車が目に入った。
「突撃!」
 彼女がそう叫ぶと、彼女を心配していた、残った騎馬が一斉に荷馬車に突撃した。

「……邪魔だ、バート!」
 その頃、その荷馬車の近くで弓を構えていたジョルジュは、向かってくる残り少ない騎馬より、シモーヌを背中に庇う、黒髪の青年の姿しか見えていなかった。
「ジョルジュ! この仕事は、荷馬車を守ることだぞ! あの子のことは、どうでもいいだろう! もう落馬してるんだから!」
「うるさい!」
 荷馬車を守ろうと奮闘するマルクがそう叫ぶ声も、嫉妬で狂った少年には届かなかった。
「いつもいつも、邪魔なんだよ! 今回もわざわざあいつの味方しやがって! ここで終わりにしてやる!」
 ドカッ!
 鈍い大きな音がして、荷馬車が潰れたが、ジョルジュはそれでもバートに的を絞り、弓を構えていた。
「ジョルジュ、いい加減にしろ! もう決着が着いただろう!」
 頭や腕から血を流しながら、兄のマルクがそう言っても、弟の耳には入らなかった。
「くらえ!」
「ジョルジュ!」
 そう叫ぶと、兄のマルクは、弟の上に覆いかぶさり、その体重で止めようとしたが、一瞬、遅く、矢は既に放たれてしまっていた。