「誰か、あの人より大事な人が出来たのではなくて?」
 だが、マルグリットのその言葉に、彼女は思わず顔を上げると、まじまじと彼女を見詰めた。
「ふふ、当たりのようね。良かったわ」
「あ、あの……?」
 マルグリットが何を言おうとしているのか分からず、シモーヌが戸惑いの表情を浮かべながらそう言いかけると、彼女は微笑んだ。
「ふふ。あの人のいいなりだけの人生を送って欲しくないと思っていたのよ。貴女は、小さい頃から剣も馬や詩などの教養同様、しっかりと身につけてきた。それこそ、男性にひけをとらない位にね。だから、負けて欲しくないと思っていたの。私は親や家などの言いなりに生きてきたけど、貴女には自分で自分の人生を掴みとる生き方をして欲しいって。私に出来なかったことを貴女にやって欲しいって思っていたのよ」
「姉上……」
「貴女が大事だと思う人の為に、あの人と対立することになっても、貴女は自分の正しいと思う道を貫きなさい。私が応援するから」
「ありがとうございます」
 シモーヌが笑顔を見せると、マルグリットも微笑んだが、すぐに申し訳なさそうな表情になった。
「でも、私がこの調子で、子供を産めそうにないから、結局は貴女に辛い決断をさせてしまうことになると思うけどね……」
「え?」
「このままだと、いずれ、貴女がこの家を背負っていくことになるわ。だから、好きなことを出来るのもあと何年かのことになると思うの」
「そんな、姉上!」
 泣きそうな表情でシモーヌが彼女の手を握ると、彼女は首を横に振った。
「貴女を悲しませたり、私に同情して欲しくて言ってるんじゃないのよ。ただ、今を思う存分、楽しんで欲しいと思っているだけなのよ」
「でも、姉上だって、まだお若いではないですか! 何も諦めなくても……」
「無理よ。自分の体調のことは、自分がよく分かっているから……」
 そう言うと、彼女は咳き込んだ。
「姉上、御無理なさらないで、お部屋にお戻り下さい」
 そんな彼女を支えながらシモーヌがそう言うと、彼女は力無く微笑んだ。
「ほらね。こんな私に、子供を産む力なんて、あると思う? 大体、あの人だって、そんなことを望んで、私の部屋に入って来ないわ。体のことを気遣ってくれるのは、嬉しいけど……」
「姉上……」
 シモーヌが困った表情でそう言うと、彼女はその手をゆっくり自分の体から離した。
「私は、もう落ち着いてきたから、大丈夫。それより、貴女は行きなさい。好きな男性がいるんでしょう?」
「それは……」
 シモーヌはそう言いながら、少し頬を赤くして、むこうを向いた。