「どうなっても構わぬとまでは申さぬが、一国の民とその生活を守る為であれば、一人の犠牲はやむをえぬと……」
「やっぱり、兄上も父上と同じなのですね……」
 アルテュールの言葉を遮るように小さな震える声でシモーヌがそう言うと、アルテュールは苦悩で顔を歪ませながら溜息をついた。
「何故、そのようなことを申すのだ? 子供じゃあるまいし、そんな聞きわけの無いことを……」
「子供ですから! もう結婚してもおかしくない年齢とはいえ、私は伯父上や父上達から見たら、いつまで経っても子供ですから!」
 シモーヌはそう叫ぶと、くるりと踵を返して部屋を出て行ってしまった。
「……まったく、どうしてこうなるのだ? 母親がいないからか? でも、私も兄上も母とは離れて育ったぞ? 一体、何がいけないというのだ? まったくもって、女は扱いにくい!」
 彼のその独り言のような愚痴をドアの外で聞いていたヨウジイは、苦笑しながら中の彼に声をかけた。
「もう一度、お嬢様をお呼びして参りましょうか?」
「いや、よい。今、呼び戻したとて、あの調子では、素直に我が軍に参加せぬであろう」
「では……?」
「放っておけ。今、しばらくはな」
「はっ。承知致しました」
 ヨウジイはそう答えて少し頭を下げると、少し開いた扉を閉めた。
 その扉越しに、彼の靴音が階段を下りて行くのが聞こえたが、アルテュールは深い溜息をつくだけで、立ち上がろうともしなかった。

「シモーヌ」
 顔を怒りで引き攣らせ、少し紅潮してもいるシモーヌが階段を下りて行くと、そこには清楚な格好のマルグリットがいた。
「姉上……」
 そう言うと、シモーヌは下まで急いで階段を降り、ドレスの裾を持って挨拶をした。
「お体はよろしいのですか?」
「貴女が久しぶりに帰ってきているというのに、横になってなどいられないわ」
 そう言って微笑むマルグリットの頬は少しこけ、顔は青白くはないものの、少し赤黒いような気がした。
「お気持ちは嬉しいのですが、どうぞごゆっくりお休みになって下さいませ」
「あの人と喧嘩してしまったから?」
 苦笑しながらマルグリットがそう尋ねると、シモーヌは困った表情になった。