自分を産んだ実の母とはいえ、自分を捨てて他の男の元に走った挙句、「不義の子」と呼ばれたのだ。無理もないだろう。
「余には、フィリップと名付けられた弟がおり、生まれてすぐに死んだとされてきた。そやつこそが、あの女の不義の子である、とも言われておった。だが、違ったのやもしれぬな」
 そう言うと、シャルルはジャンヌを頭のてっぺんから足の先まで見回した。
 蝋燭の灯りの下(もと)、少し暗めの短く切った金髪と、それよりもっと輝く瞳が見えた。そのどちらも、シャルル自身と少し似ている気がした。
「まさか、それが私だとおっしゃられるのですか?」
「ふん、余は可能性を示唆しただけだ」
「は、はい……」
 ジャンヌが戸惑いながらそう言った時だった。
「陛下、ラ・トレムイユにございます」
 扉のむこうからそう言う男の声がしたのは。
「では、王太子様、私はこれで……」
 扉のむこうから年配の男の声がしたのを聞くと、自分は邪魔になるだけだと思ったのか、ジャンヌはそう言い、シャルルに頭を下げると、その扉を開けた。
 チラッ。
 本当に一瞬、扉を開けた少女と目が合っただけだったが、ラ・トレムイユは顔をしかめた。
 だが、ジャンヌはそんなことを気にも留めなかった。
 元々、田舎の小娘が大天使のお告げをもらったなどと、魔女まがいのことを言った挙句、国王(彼女自身はシャルルがランスで戴冠するまで「王太子様」と呼ぶが)と会おうなどと大それたことを言うのだ。普通の男には気が触れたとか、偉そうな勘違い娘としか思われず、顔をしかめたり、嫌なことを言われるのも一度や二度ではなかった。だから、いちいちそんなことを気にしてなどいられない、というのもあっただろう。
 まさか、後々、彼の城に幽閉されるなどとは思いもしないで。

「陛下、あの小娘は如何でございましたか?」
 そんな彼女が部屋を出て行くのを確認すると、ラ・トレムイユはずる賢そうな表情でそう尋ねると、シャルルは冷ややかな笑みを浮かべた。
「使えそうではある」
「ほう。それは、ようございましたな。どうぞ存分にお使い下さいませ」
「まぁ、ランスに行くまでのことだがな」
「ランスでございますか?」
「ああ。そこで、戴冠しろと申すのだ」
「ほう……」
 そう言うラ・トレミユの瞳がキラリと光った。