「気高き王太子様、私は乙女ジャンヌ(ジャンヌ・ラ・ピュセル)と申します」
 それを見ると、ジャンヌは彼の前に跪き、頭を下げてそう言った。
 その言葉と態度に、その場にいた者達は顔を見合わせ、小声で囁き合った。「何故、分かったんだ?」と。
『陛下のお顔の特徴としては、左頬に小さなほくろがあるのと、金髪だということくらいです。貴女の金髪よりは少し濃いめのお色ですが。もし陛下を見つけろと申されましたら、それを参考になさって下さい』
 少し心配そうなシモーヌの表情が、ジャンヌの脳裏にドアを開けた後も映し出されていた。が、彼女が彼の前で立ち止まった時には、前に立っていた男達の姿で、そんなほくろなど見えなかった。それでも、何故か何となく分かったのは、彼女が本当に神に選ばれた少女だからなのか、それとも……。
「天の王が私を通じて、あなたがランスの町で戴冠され、王位につかれるようにと命じておられます。あなたはフランスの国王となり、天の王の代理人となられるでしょう。神が私を遣わされたのは、あなたが戴冠式をあげられ、聖別を受けられるよう、ランスへお連れするためです」
「な……に?」
 彼女の言葉に、シャルルは頬をピクリと動かし、やがて赤くしていった。
 何故、こんな小娘が我らが代々ランスで戴冠していると知っている? 田舎といえど、王のことは聞いておるということか? ……にしても、神がこの余を王に選んだ、とはな。
 シャルルの兄二人は既に亡くなっており、それも実は暗殺されたのではないかと言われていた。そして、イギリスについた実母イザボアには「不義密通の子」と言われ、正式な王位継承者ではないと言われ、その地位を危ぶまれていた。
 余のことを「陛下」ではなく「王太子」と呼ぶのは不愉快だが、この娘、使える……。
 興奮し、頬が熱くなるのを感じながら、彼はジャンヌに手を伸ばした。
「近う寄れ」
「はい、王太子様」
 素直にそう答えて傍に来る少女を見て、シャルルはニヤリとした。
 自ら余の懐に飛び込んできたこの娘、存分に使わせてもらおうぞ!
 シャルルに小さな別室に呼ばれたジャンヌは、そこで彼を益々満足させた。実母イザボアに言われた「不義の子」というのが自分ではなく、彼女だというのが分かったので。
「これは……」
 生まれや育ちのことを詳しくシャルルに尋ねられたジャンヌは高価そうなブローチを見せ、シャルルはそれに目を丸くした。
 それは、彼女の養父母、ダルク夫妻に赤ん坊の彼女を託し、そのまま息を引き取ったという女が持っていた物だった。
「母上がよくつけておられた物ではないか……!」
 それを見た時は、顔から血の気が引いたものの、そう言いながらジャンヌを見る彼の顔は、赤くなっていた。
「お母上ということは、つまり……」
 そう言うジャンヌの手は、ブルブル震えていた。
「イザボー。イザボー・ド・バヴィエール。エリーザベト・フォン・バイエルンとも言うようだがな」
 そう言うシャルルの顔はしかめられ、目は遠くを見ていた。