「マジかよ……」
 目を丸くしながらジョルジュがそう呟いた時、ドンと大きな音がして、馬が着地した。荷馬車の上に。
「お、おい!」
「これは、又……」
 ジョルジュとマルクが目を丸くする中、荷馬車の上にあった荷物はつぶれ、まだ目を丸くしている彼らの目の前で、馬車から下り、むこうに走って行った。
「ありえねぇ……」
 むこうに走って行くその姿をまだ見送りながら、ジョルジュがそう言うと、マルクが首を横に振った。
「あれは、凄い。とても、初陣とは思えないな、ジョルジュ」
 その言葉に、ジョルジュの顔が引き攣った。
「そうか。そういうことか……」
「ジョルジュ?」
「あいつ、初陣なんかじゃねぇんだよ、兄貴。きっと、どこかの戦場に出てたんだ。だから、あんな賭けに応じたんだよ! でなきゃ、おかしいって……」
「ジョルジュ?」
 マルクがそう聞き返した時だった。
 ヒヒン!
 再び馬のいななきが聞こえたかと思うと、又先程のシモーヌの騎馬隊がやって来たのは。
「冗談じゃねぇ! もうやられてたまるか! 初陣じゃねぇって分かってるんなら、もう容赦はしねぇぜ!」
 そう言うと、ジョルジュは弓を構えた。
 ヒュン!
 彼の放った矢は、シモーヌの傍を走っていた馬に当たり、その馬に乗っていた者は落ちたが、彼女は先程と同じようにひらりと身をかわし、又別の荷馬車を潰したのだった。
「くっそぉ! やってくれるじゃねぇか、女のくせに!」
 彼はそう叫ぶと、怒りで顔を真っ赤にしながら、矢を何本も放った。
 そのうちの一本の流れ矢が、港の近くにいた関係の無い商人の足元をかすった。
「ジョルジュ! 関係の無い者を巻き込むところだったぞ!」
「知るか、そんなの!」
 そう叫ぶと、ジョルジュは新しい矢をつがえた。
「あと1台ですね」
 その残りの一台の近くにいるバートにシモーヌがそう声をかけると、彼は彼女を見もせずに叫んだ。
「馬鹿! こんな時にわざわざ話しかけてると、危ないぞ!」
 彼がそう叫んだ時だった。
 ドン!
 バートがそう叫んだ時、シモーヌが乗っていた栗毛の馬の腹に矢が刺さった。
「きゃあっ!」
 思わずシモーヌも少女らしい叫びをあげたが、ただ落ちるだけでなく、何とか受け身をとったのか、くるくると回ったものの、頭や腰などは体を丸めて保護していた。
「シモーヌ!」
 だが、それを見ていたバートは青ざめながら彼女に駆け寄った。