「久しぶり」
 しばらく別行動していたバートは、そう言うとシモーヌに近付くなり、いきなり抱きしめた。
「ば、バート、ここはまだ外ですよ?」
 そう言って真っ赤になりながらも、シモーヌは全く抵抗しなかった。彼女とて、寂しかったからだろう。
「いいじゃないか。夫婦ってことになってるんだし、それにその女の格好じゃな」
 そう言いながらシモーヌを離すと、バートはニッと笑って、彼女の額にキスをした。
「で、どこに行ってたんだ、お前は?」
「それは……」

「国王陛下に会いに行ってた、だと……?」
 宿屋の部屋の一室。暖炉の前で、下着にシャツを着ただけの楽な格好のバートは、そう尋ねながら、目を丸くしてシモーヌを見詰めた。
「だから、あんな女官のような格好をしていたんです」
 そう答えるシモーヌも上着は脱ぎ、髪も下ろしていた。
「リッシモン元帥の妹だっていうから、そういう所までつながりはあるだろうと思っていたが、やっぱりお前は凄いな……」
 バートはそう言いながら暖炉の前の木の椅子に座ると、顔を手で覆った。
 どうやら、自分と彼女の地位の差を再び思い知らされたようだった。
「何言ってるんです、バート? あなたが時々会っているあの少女だって、実は……」
「しっ!」
 バートは急に怖い表情になるとそう言い、辺りを見回した。
 階下が小さいながらもバーになっているからか、少し酔った男達が騒ぐ音は聞こえるが、二人の部屋の周りを窺う足音等は聞こえなかった。
「大丈夫ですよ。あの子なら、この周囲の人達の信頼はもう得ているようですし」
 シモーヌがそう言うと、バートは溜息をついた。
「それだ、問題は。どうやら、今週末に屋敷に呼ばれたらしいぞ。そう、確か名前は……メッシ、いや、メッスだったな」
「ジャン・ド・メッス様ですか?」
「そう、それだ!」
 大きく頷きながらそう言うと、バートは再び目を丸くした。
「何で知ってるんだ? この間までシノンにいたんだろう?」
「そうなんですが、むこうの市場を歩いていたら、むこうでも既に話題になっていたんです。ここの貴族まで心酔してるようだ、って」
「おい、じゃあ、陛下はあまり気分良くないんじゃないか?」
 バートが声を落とし、少し顔をしかめてそう尋ねると、シモーヌも困った表情になった。