「嘘だな」
 ピエールのその言葉に、ジャンヌは目を丸くした。
「何故分かるんですか? そんなに私、分かりやすいですか?」
「分かりやすいよ。かなりな」
 そう言うピエールは、苦笑していた。
「で、兄貴は何て言ってたんだ、俺のこと? 近付けるな、とかか?」
「まぁ、そんな感じのことです。すみません、いつもお世話になってるのに……」
 そう言いながら、ジャンヌが軽く頭を下げると、ピエールは又、首を横に振った。
「いや、いいよ。君の兄貴の言ってることは、当たってるし」
「え?」
「近付いて来る男には注意した方がいい。大抵の男は、下心があって、近付いて来るものだからな」
「そうなんですか?」
「そうだよ」
 ピエールはそう言うと、再び苦笑した。
「今まで兄貴が守ってくれたから、気付かなかったんだろ?」
「そうかもしれません」
 流石に、兄にそれとなく、大人になったら……と言われてきたとはいえず、ジャンヌは苦笑しながらそう言った。
「まぁ、あの兄貴がいれば、そうなってもしょうがないよな。兄貴っていうよりは、恋人みたいに見えるし……」
「そんなことないですよ! 私は、兄さんとしか思ってませんし!」
「君はそうでも、むこうはそうじゃないだろ? 大体、血も繋がってないんじゃないか? 顔とか、全然似てないし……」
 ピエールのその言葉に、ジャンヌは肩を落とした。
「やっぱり、分かるものなんですね……」
「ご、ごめん……。落ち込ませる為に言ったわけじゃないんだよ」
 慌ててピエールがそう言うと、ジャンヌは微笑んだ。
「分かってます。そんな人には見えませんし。それに、兄のことは、何とかしなきゃ、とも思ってましたから……」
「何とかって?」
「もっと、距離をおかないと、ってことです」
「距離か……。まぁ、修道院で働き、そういう関係を嫌っている君のことだ。そうするのが当然なんだろうな。だが、あまりキツイことは言ってやるなよ」
「心がけます」
 ジャンヌがそう言って微笑んだ時だった。修道女が一人、彼女に近付いて来たのは。
「ジャンヌさん、あの大奥様が来られました」
「分かりました」
 そう言うと、彼女はピエールに手を振り、そこをあとにしたのだった。
「大奥様? この辺でそう呼ばれるのって、貴族のあのお屋敷の前の奥方しかいないはずだが、まさか……」
 その後姿を見送りながら、ピエールはそう呟き、首を横に振った。そんなこと、ある訳が無い、と。