――それから二週間程経ったが、相変わらずジャンヌは守備隊の宿舎には入れずにいた。ずっと門前払いのままだったのである。
 それでもジャンヌは諦めることなく、毎朝守備隊の所に日参していた。
 とはいえ、彼らにも生活費が要る。
 それを稼ぐ為に、兄のジャンは鍛冶屋等でバイトを、ジャンヌは主に修道院の手伝いに出かけていた。修道院の方は、ほとんど金にはならなかったが、時折食べ物を貰っていた。
 そして二人とも、時々、他の地域への遠征から帰って来たバートに、剣の使い方を習っていた。妻のシモーヌもいる時は、読み書きや礼儀作法も。
「本当に諦めないんだな」
 そんな二人の様子をよく見に来るのは、あの門番のピエールだった。
 ジャンヌの兄のピエールと同じ様に日焼けはしているが、髪の色は茶に近い赤毛ではなく、黒髪だったが。
「諦める訳にはいかないんです」
 そう言ったのは、修道院から出て来たばかりのジャンヌだった。
「この国を救う、か……。こういう修道院を手伝うことも充分、この国の為になってると思うが……」
「そうでしょうか?」
「それだけじゃなくて、結婚して、子供を産むのも国の為になると思うぞ? こういうご時勢だ。子供は一人でも多いに越したことはないだろう」
 そう言うピエールの顔は、赤かった。
「それはそうかもしれませんが、私はお告げを受けた以上、それを成就するまで、誰のものにもなるつもりはありません」
「それって、独身でいるってことか? 修道女みたいに?」
「はい。男の人とそういうことは、決してしません」
「そこまでかよ……」
 ピエールはそう言うと、肩を落とした。
「あの……自信過剰な発言だったら恥ずかしいのですが、ひょっとしてピエールさんは私のこと、その……そう言う目で見てらっしゃるのですか?」
 そんな彼に、ジャンヌが顔を赤らめながらそう尋ねると、彼は溜息をついて頷いた。
「ああ、そうだよ。初めて会った時からな」
「ごめんなさい……」
 ジャンヌがそう言って謝ると、ピエールは首を横に振った。
「いいよ。それより、その事をあの兄貴は知ってるのか?」
「ピエールさんの気持ちですか?」
「そうじゃなくて、その……ずっと男とは付き合わないというか……その……」
 言いにくそうにそう言うピエールに、ジャンヌは頷いた。
「はい、知ってます」
「何か言われなかったのか? あの兄貴の俺を見る目、どう見ても嫉妬してるみたいだったぞ?」
「はい……」
 そう言いながらも、ジャンヌは苦笑していた。