温かな日差しを浴びて、輝く弓の弦。
 それを引っ張り、弓を構える少年の傍で、金髪の逞しい青年は困った表情で言った。
「ジョルジュ、私をこっちに引き入れたのは、卑怯じゃないのか? 相手は、初陣だぞ?」
「へん! そんなこと、俺が知ったことかよ!」
 そう言いながらも、濃い栗色の髪の少年は、弓を構えるのをやめようとはしなかった。
「しかしな……」
「何だよ! 仕事に卑怯もへったくれもないって言ってたのは、兄貴の方じゃねぇかよ!」
「それはそうだが、お前、あの子に一目惚れしたんだろう? なのに、そんな態度じゃ、相手も分かってくれないだろうし、ましてや受け入れてくれるわけがないぞ」
「な、何だよ!」
 兄のその言葉に流石に動揺したのか、ジョルジュはそう言うと、弓を構えるのを止めた。
「べ、別にそんなんじゃねぇよ!」
「じゃあ、何故、勝ったらキスなんだ? それも恋人がするような奴だろう?」
「あ、あいつがお子ちゃまだから、からかっただけさ!」
「これからは、そういうからかい方はしないようにするんだな。本当に本命が現れた時に困るだろう」
「そ、そうかもしれねぇけど……」
「まぁ、あの子、綺麗だったからな。お前の気持ちも、分からないではないが……」
 日頃、カタブツで、弟の世話しか焼いているところを見たことが無かったので、密かにゲイではないかとの噂も流れていた彼のその言葉に、ジョルジュも目を丸くした。
「あ、兄貴まであの子が気に入ったのか?」
「気に入ったとは言ってない。綺麗だと言っただけだ。お前のライバルになる気まではないよ」
「そ、そういう意味なんかじゃ……」
 そう言うジョルジュの顔は赤く、視線はあちこちに動いていた。
 ヒヒン。
 ちょうどその時、近くで馬のいななきが聞こえたかと思うと、ひずめの音がした。
「あいつか?」
 馬にまたがる長い黒髪に赤い乗馬服の少女の姿を見たジョルジュが、そう言いながら弓を構えようとした時だった。
 ドン!
 勢いよく馬が地面を蹴ったかと思うと、彼らの頭上を跳んでいたのは。