小さな片田舎の村でしかなかったドン・レミと比べると、少し開けた感じのする、ヴォークルール。
 そこには、ドン・レミには無い、守備隊があり、街を守っていた。
「今日も異常無しだな」
 そう言いながら、街の一番高い塔の上から街を見下ろすと、黒というよりは灰色に近い髪の男は、満足そうに頷いた。
「まぁ、こんな田舎町をわざわざ襲いに来る者もいないだろうが……」
 彼がそう言った時だった。そこに見張りらしき若い男が駆けて来たのは。
「隊長、門の所に女が来ておりますが……」
「女?」
 その言葉に、守備隊長ロベール・ド・ボードリクールは顔をしかめながら、顎に手を遣った。
 どうやら、思い当たる女が何人かいるらしい。
「何と言ってきてるんだ?」
「それが、その……守備隊に入れろ、と……」
「何?」
 意外な答えに、ロベールは思わず男の方を振り返った。
「飯炊き女なら、足りているだろう?」
「いえ、そうではなくて、守備隊の一員として、戦うと……。このフランスを守ると言っているのです」
「生意気な!」
 ロベールはそう言うと、近くにあった樽を蹴飛ばした。
「その女、どこにいる!」
「まだ門の所ですので、城壁から見えるかと……」

 中世には、小さいながらも町の周囲を城壁で囲み、その街を守るのに使われた。現在も残っている有名なものといえば、フランスではなく、ドイツになるが、ローテンブルグがいい例だろう。
 ヴォークルールの城壁は急ごしらえだったので、あそこまでしっかりした物ではなかったが、上から訪ねてきたという女を見るには、充分だった。
「何だ、あれは! まだ子供といってもいい位ではないか!」
 少し離れた上から、門の前で馬と男を連れた少女を見ると、ロベールは目を丸くしながらそう言った。
「はい。十七だと申しておりました」
「だろうな。で、傍にいる男は?」
「兄だそうです」
「そうか……」
 そう言うと、ロベールはそこを去ろうとした。
「よ、よろしいのですか?」
 門番の若い男が慌ててそう尋ねると、ロベールはフンと鼻で笑った。
「あんな小娘の言うことをマトモにとりあって、どうする!」
「ですが……」
 門番が困った表情でそう言いかけると、何故かロベールはニヤリとした。
「美人なのか?」
 そのロベールの言葉に、たちまち真っ赤になる、門番。