「馬鹿! 今は、少しでも早く手紙を書いて、元帥閣下に届けるのが先だろ? あんな女、ほっとけ! 俺もさっきから観察してたが、あれは単なるデバガメだ。スパイじゃない」
「そうですか……。でも、お嬢様への侮辱は……」
「俺達は、夫婦でここに泊ってることになってるんだ」
 バートのその言葉に、一瞬ヨウジイは大きく目を見開いたが、やがて肩を落として溜息をついた。
「やはり、そういうことでしたか……」
「悪いな」
 少し困った表情で、でもどこか勝ち誇ったような表情でバートがそう言いながらヨウジイの肩を軽くポンと叩くと、彼は首を横に振った。
「いえ、よいのです。お嬢様さえ、お幸せなら、私は……」
 そう言いながらも目頭を押さえる彼は、どうやら涙を抑えきれないようだった。
「よっぽどシモーヌを想ってたんだな」
「まだ知りあってから二年程ですが、よくして頂きましたから」
「そうか……。大丈夫。大事にする」
「そうでないと困ります」
 そう言いながら、ヨウジイは腰の剣の柄に手を遣った。
「神にかけて、誓うよ」
 そう言ってバートが手を挙げ、宣誓のポーズをとると、ようやくヨウジイは微笑んだ。まだどこか、ぎこちない笑みだったが。
「お願いしますよ。では、中にお入り下さい。ここは、私が守りますので」
 そう言って、ヨウジイがドアの傍に立つと、バートは頷いた。
「分かった」
 そう言って中に入りながら、彼は小さな声で呟いた。
「大事にする。絶対にな」
「あら、お帰りなさい」
 バートが中に入って来ると、シモーヌがそう言って微笑んだ。
 彼女が座っている机の上には、見たこともない物が載っていた。