「じ、ジャンヌ……」
 まだ涙を流しながら、母親がそう言って彼女を追いかけようとすると、夫がそれを止めた。
「追いかけるな!」
「でも……」
「今、追いかければ、本当にあの子は出て行ってしまうぞ?」
 その夫の言葉に、母親はその場で涙を流した。
バン!
 乱暴に玄関のドアを開けてジャンヌが外に出ると、すぐそこまで、ジャンがピエールに連れられて戻って来ていた。
「ジャンヌ……」
 思わず彼女と目が合い、ジャンはその名を呟きながら目を丸くした。彼女の目から涙がこぼれ落ちたので。
「待てよ、ジャンヌ!」
 そのまま走り去ろうとした彼女の腕をつかむと、彼はそう声をかけた。
「一人にして!」
「出来る訳無いだろ! お前が泣いてるっていうのに! 一人で泣かずに俺達の所で泣けよ!」
 その言葉に、ジャンの腕をふりほどこうとしていた彼女の腕が下に下がり、足も止まった。
「お前が兄としてしか見れないっていうのは、よく分かった。だから、それで構わない。けど、一人で……一人ぼっちで寂しく泣くのはよせ。家族がいるだろ? 血はつながってないかもしれないけど、俺達は一緒に一六年暮らしてきたんだ。家族って言えるだろ? それも駄目なのか?」
 ジャンのその言葉に、彼に背中を向けたまま、ジャンヌは首を横に振った。
「……駄目じゃない。嬉しいの……。でも、だからこそ、こんなに大切に想ってくれるジャンの気持ちに応えられない自分が歯がゆくて、嫌で嫌でたまらなくて……」
 そう言うジャンヌの背中が、小刻みに何度も揺れていた。
「そんな嫌な奴だったら、俺達は誰もお前のことをこんなに大事に想ったりしないさ」
 ジャンがそう言いながらその肩にそっと手を置くと、ジャンヌは振り返って、彼の胸の中で泣きだした。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
 何度もそう言いながら。