そう返事をし、頷く彼女の瞳には、再び強い意志の光が灯っていた。
「では、ご両親の説得が終わられましたら、ヴォークルールにお向かい下さい」
「ヴォークルールに、ですか?」
「ええ。ここから一番近い守備隊は、そこにありますので。明日、又、ここに来て、そこの守備隊長にお渡しする手紙をお届けします」
「手紙?」
「ええ」
 シモーヌはそう言うと、ジャンヌに頷いた。
「大丈夫です。貴女の出生の秘密がバレるようなことは致しません。ただ、さる有力なお方からの紹介で、とだけ書いておきます」
「あ、ありがとうございます」
 ジャンヌがそう礼を言うと、シモーヌは微笑んだ。
「ジャンヌ……」
 シモーヌとバートの二人が家を後にすると、ジャンヌもゆっくり屋根裏から下りて来た。
 そんな彼女を、年老いた夫婦は顔を見合わせて見ると、母親が娘の名を呼んだ。
「聞こえちまったんだけど、本当に行くつもりなのかい? 戦場なんかにわざわざ……」
「だって、お告げをもらったんだもの。行かない訳にはいかないでしょ」
 力無く微笑みながらそう言う娘の手は震え、目には涙が溜まっていた。
「けど、そんなの、ただの夢だろ? 何もお前がそんな危ない所に行かなくたって!」
「そうだ! そんな所に行く位なら、さっさと結婚しちまえ!」
 母だけでなく、父もそう言うと、プイとむこうを向いた。
「そうだよ、ジャンヌ。ジャンのことを兄としてしか見れないっていうんなら、他の男を探してやるからさ、戦場に行くっていうのは、止めとくれよ! 他の子達はみんな嫁いだりして出ていっちまったんだ。もう残ってるのは、お前達しかいないんだよ。そのお前に何かあったら、あたしは……」
 そう言うと、母親は泣きだしてしまった。
「おい、そんなに泣くなって!」
 これには、横を向いていた父も慌ててそう言いながら妻を慰め始めた。
「母さん……」
 ジャンヌ本人もそう言いながら近付いたが、父が一喝した。
「寄るな!」
「と、父さん?」
 ビクっとしながらジャンヌがそう尋ねると、父は怖い表情で言った。
「母さんを泣かせてまで死にに行こうとする奴は、近付くな!」
「父さん……」
 そう小さな声で言うジャンヌの目からは、涙がこぼれて落ちた。
「ごめんなさい……」
 やがて、彼女はそう言うと、そこから走って外に出て行ってしまった。