「やっぱり、兄さん達、ここでずっと聞いてたのね! さっきから物音がするから、おかしいなぁとは思ってたけど」
 すると、唇をギュっと噛みしめるジャンを庇うようにピエールが言った。
「すまない、ジャンヌ。だが、俺達はお前のことが心配だったんだよ。それに、ジャンはお前のことを……」
「私は、兄さんとしてしか見れないわ。今まで兄妹として育ってきたのに、急に男として見ろって言われても、無理よ! それに、だとしたら、一緒に暮らすのは変でしょ?」
「それはそうだが……」
 そう言いながら、ピエールはチラリとジャンを見た。
 彼は二人より年上なので、ジャンヌを「好き」という気持ちもあったが、妹のように「守らねばならない」とは思っていても、恋愛の対象とは少し違っていたのかもしれない。あるいは、年上な分、自制する方法を知っていただけかもしれないが。
「何度も言われなくても、分かってるさ!」
 うつむいていたと思ったジャンが、突然そう叫んだかと思うと、屋根裏への小さな階段を駆け下りて行ったのだった。
「おい、ジャン!」
 ピエールはそう言うと、シモーヌ達に軽く頭を下げ、弟を追って行った。
「追いかけなくてもいいのですか?」
 遠慮がちにシモーヌがそう尋ねると、ジャンヌは溜息をついた。
「いいのです。いつものことですから。それに……」
 そう言うと、ジャンヌはシモーヌをじっと見詰めた。
「私は先程、大天使ミカエル様達からお告げを頂戴しました。それを実行に移したいのです」
「実行に移すって、確か、フランスを守るってことですよね? 一体、何をするつもりなのですか?」
「私も戦場に立つつもりです」
「せ、戦場って! 弓でも使えるのですか?」
「いえ、戦場で使える程ではないと思います。兄達の猟について行ったことはありますが、それも本当について行ったってだけでしたので……」
 そう答えるジャンヌの顔は、いつの間にか下を向いていた。
「でも、貴女も戦場に立たれているのでしょう? だったら、私にもきっと何か出来ることがあるはずです」
 うつむいたジャンヌが顔を上げると、そう言った。
「負傷兵の治療にあたるとか……ですか?」
 シモーヌのその言葉に、ジャンヌは思わず身震いした。血だらけで倒れている兵士達の姿でも想像したのだろう。
「で、出来る限り頑張ってみます!」
 キッと前を見てそう言う彼女の意思は、強いように感じられた。
「……思ったより意思がお強いようですね」
 そんな彼女の表情を見て、シモーヌがそう言うと、ジャンヌは顔を輝かせた。
「では、手伝ってくれるのですね!」
「表立ってお手伝いするつもりはありません。それは、良くないと思いますので……」
「そうですか……」
 少女はそう言うと、うなだれた。
「でも、お告げを貰われたのでしょう? 大天使ミカエル様達に、このフランスを救え、と。でしたら、陰ながらお支えしますが、表だってはしない方がよいでしょう」
「はい」
「それと、ご両親は説得なさってから、動いて下さいね」
「はい」
 そう返事をし、頷く彼女の瞳には、再び強い意志の光が灯っていた。