「無理することありませんよ。いきなり色んなことがあったのです。不安になったり、怖くなるのは当然のことです。恥ずかしくもありませんよ」
「そうでしょうか?」
 年はそう変わらないものの、自分より背が高く、座高も少し高い彼女を見上げ、ジャンヌがそう尋ねると、シモーヌは微笑みながら頷いた。
「私だって、初めて戦場に出た時は、足が震えましたし……」
「戦場?」
 ジャンヌは目を丸くして、そう聞き返した。
「貴女も戦場に出てるんですか? 私とそんなに年が変わらない位なのに?」
「17になりました。それに、夫もいます」
 シモーヌは微笑みながらそう言うと、チラリとバートを見た。
 バートも頷いて肯定する。
「いいんですか? 奥さんまで戦場に出しちゃって?」
「こいつは、そこそこ強いからな。それに、危ないと思ったら、俺が守る」
 バートがそう言ってシモーヌを見ると、彼女は顔をあからめてうつむいた。
「いいですねぇ……」
 そんな二人の仲睦まじい様子を見ながら、少し頬を赤らめたジャンヌが、本当に羨ましそうにそう言うと、シモーヌが顔を上げた。
「あら、でも、貴女にもそういう方がいらっしゃるでしょう? 少なくとも、二人は」
 その言葉に、ジャンヌは少し困った表情になった。
「それって、ピエール兄さんとジャン兄さんのことですか?」
「ええ。他にもいるんですか?」
「兄弟ならいますが……一番私のことを心配して、結婚も先延ばしにしているのは、あの二人だけです」
 そう言うと、ジャンヌは溜息をついた。
「貴女もお兄さん達のことが心配なんですね?」
「ええ」
 シモーヌの言葉にジャンヌは頷くと、彼女を見た。
「私は、早く二人に結婚して、幸せになってもらいたいんです」
「貴女と結ばれるということはないのですか?」
「兄妹として育ってきたんですよ? そりゃまぁ、兄弟の中で私だけ髪の色も顔立ちも違うので、本当の娘じゃないのは薄々感じてましたが、それでもあの二人は、それが原因で近所の子に苛められてる私をいつも庇って、妹だって言ってくれたんです。兄としての愛情と信頼はありますが、男性としては……」
 彼女がそう言って溜息をついた時、コンと扉に何かが当たる音がした。
「ジャン?」
 そう言うと、ジャンヌはドアに近付いた。
「ジャンヌ……」
 少女がドアを開けると、そこには彼女が思っていた通り、ピエールとジャンの二人の兄がいた。申し訳無さそうな表情で。