「……じゃあ、どこまで聞いたのかな?」
 ジャンヌの狭い屋根裏部屋に着くと、シモーヌの横に、彼女と同じく木製の椅子に座り、バートはそう尋ねた。
「どこまで、とは? 私のお告げのことでいらしたんじゃないんですか?」
「お告げ?」
 これには、バートも目を丸くし、シモーヌを見た。
 すると、彼女も困った表情でこう言ったのだった。
「私達の着く少し前に畑で倒れて、気を失っている間に聖カトリーヌ様とマルグリッド様、それに大天使ミカエル様が出てこられた夢を見たんですって」
「な、何……?」
 意外な展開に、バートは目を丸くした。
 流石に傭兵として色んな修羅場をくぐってきたものの、そんな神がかり的な話は初めてだったので、どういうことだとでも言いたげな表情でシモーヌを見た。
「偶然にしても、びっくりよね」
 だが、シモーヌとて、そんな報告は先程受けたばかり。どう対処すべきか戸惑っているというのが本音だった。
「と、とにかく、だ。俺達は、君に言わなくちゃいけないことがある。君の本当のご両親のことだ」
「ああ……。さっき、それらしいことをおっしゃってましたね」
 そう言うと、ジャンヌは自分とあまり年の変わらないシモーヌを見た。
「ええ。先程、貴女様のご両親は、この国を導かれる方だとお伝えしました。意味がよく分かりませんでしたか?」
「ここの父と母が、本当の両親じゃないのは知ってました。でも、だからといって、この御時勢、たいしたことじゃないと思うんですが……」
 そう言いながら、ジャンヌはシモーヌとバートを見た。
 二人も、互いに顔を見合わせた。
「確かに、このご時勢じゃ、親と死に別れた赤ん坊を見つけて、養子にしてる家族もいる。こんな小さいが、戦火から逃れている村なら、尚更だろうな」
「でしょう?」
 ジャンヌが微笑みながらそう言うと、バートは首を横に振った。
「それはそうだが、君の場合は違うんだ。さっきこいつが言ったのを、もっと分かりやすく言うと、王族だってことなんだよ」
「お、王族……?」
 流石の彼女も目を丸くしてそう言った時だった。ガタンとドアのむこうで音がしたのは。
 おそらく、彼女のことを可愛がっている兄二人が、心配で聞き耳をたてていて、ショックのあまり思わず音をたててしまったのだろう。
「そんな、まさか……。さっきのお告げで、フランスの為に私も頑張らないと、とは思ったけど、まさかそういう意味もあっただなんて……」
 だが、当の本人も意外な言葉にショックを受け、兄達のことなど気付くことなく、そう言うと真っ青になっていったのだった。
「大丈夫ですか?」
 そんな彼女の表情を見て、目の前の椅子に座っていたシモーヌがそう言って立ち上がり、粗末なベッドの彼女の横に座った。
「だ、大丈夫です……」
 健気にそう言う彼女の体は、小刻みに震えていた。