「あの娘は、俺らの子だ! どこのお偉方か知らねぇが、今頃返せって来られても、渡せるかってんだ!」
 そう叫ぶと、男は赤い顔で棒をバートに振り下ろした。
「おっと」
 が、相手は傭兵で名の知れた男。素人の攻撃など簡単に受け流すことが出来た。
「な、何! くそっ! 馬鹿にしやがって!」
 だが、それが一層男の自尊心を刺激したのか、彼は耳まで真っ赤になって、再びバートに棒を振り下ろした。
「あんた、いい加減にしておくれよ! ジャンヌの客人に怪我させてどうすんだい!」
「怪我するのは、旦那さんの方だと思いますけどね」
 バートはそう言うと、よけると同時に男の手首をつかみ、ねじり上げた。
「く、くそっ!」
 男は益々顔を赤くして、足で蹴ろうとしたが、バートの方が背が高い為に、足が届かなかった。
「もうそれ位でいいでしょう?」
 その時、上の階につながる階段の所からそう言う綺麗な声がしたかと思うと、黒髪の巻き毛の美少女が、銀の髪の少女を伴って降りて来ていた。
 その後ろには、ジャンヌを心配そうに見ているジャンとピエールがいる。
「おい、ジャンもピエールもそんな所で何やってんだ! さっさとわしを助けないか!」
「もうやめて、父さん!」
 そう叫んだのは、ジャンヌだった。
「ジャンヌ……」
 父は娘の名を呼ぶと、困った表情になった。
「お前、もういいのか?」
「うん、大丈夫」
 そう言うと、ジャンヌは自分を支えていたシモーヌに目で合図をし、一人で父と母の元にゆっくり歩いて行った。
「それより、この人も上に上がってもらうけど、いいよね?」
「そ、そりゃあ、お前がいいというのなら構わないが……」
 そう言いながら、父親は妻をチラリと見た。
 その目の表情からして、「お前が反対しろ」と言いたげだったが、妻は夫の腕をギュッとつまんで「嫌だよ」という意を表した。
「じゃあ、狭い所ですが、どうぞ」
 ジャンヌはそう言うと、バートを中に案内した。
「ありがとう」
 笑顔でそう答えながら、バートはチラリとシモーヌを見た。彼女は、まだ説明は済んでいないという意味なのか、首を横に振った。