「ジャンヌ・ダルクさんのお宅は、こちらですか?」
 そんな時、階下にはそう尋ねてきた若夫婦がいた。
「は、はい……。あの子が何か致しましたでしょうか? 先程、畑で倒れ、兄達が運んできたのですが……」
 母親らしき年配の女性がそう言うと、シモーヌは思わず叫んだ。
「大変! 失礼します!」
 そう言うと、彼女はロクに挨拶もしないまま、家の中に入って行ったのだった。
「あ、あの!」
 母親がそんな彼女を呼び止めようとした時、誰かがその手を握った。
「マダム、御無礼をお許し下さい」
 バートはそう言ってにこりと微笑むと、母の手の甲に恭しくキスをした。
「ま、まぁ、嫌だわ……」
 そう言いながらも、彼女は真っ赤になり、手を引っ込めようとはしなかった。どうやら、バートのような美青年に恭しく礼を尽くされて、まんざらでもないらしい。
「イザベル! 何をニヤケてんだ!」
 それを夫らしい、妻と同様、恰幅のいい男がそう言って邪魔をした。
「イザベル!」
 怖い顔で、自分と同じ年位の年配の女を男が叱ると、女はバートから離れて、プイとむこうを向いた。
 バートもさっき男の声がした時点で、既に女の手を離していた。
「おい、お前!」
 だが、嫉妬で怒り狂った男は、そんなことに気付きもせずに、自分より背が高く、逞しいバートに近付いて睨みつけた。
「このババァなんぞに色目使いおって! 叩きだされないうちに、さっさと消えやがれ!」
 そう言うと、彼は手に持っていた小さな棒を振り上げた。
「それは困ります。妻が中に入ってしまいましたので」
「な、何!」
「あんた、ジャンヌを探しに来られたんだよ!」
 イザベルがそう言うと、益々男の目が釣り上がった。