「どうしてそれを他の人にも見せてあげないのです?」
 その言葉にジョルジュは目を丸くし、再び不機嫌そうにむこうを向いた。
「何だよ? 兄貴から余計なことを聞いたのか?」
「少しだけ……。一緒に戦いたくないと言われたとか……」
「フン! 弱い奴なんかと組む気なんざ、俺にだって無いっての!」
「それで、本当にいいのですか? 戦場で共に戦ってくれる仲間がお兄さんとバートさんだけというのは、心もとないのでは?」
「俺は一人でも大丈夫だ!」
 ジョルジュは大きな声でそう叫ぶと、立ち上がった。
「なら、賭けをしてみませんか?」
「賭け?」
 すぐにでもそこを後にしようとしたジョルジュだったが、その言葉に思わずシモーヌを見詰めた。
「ええ。私と貴方で、次の戦い、競ってみましょう。どうですか?」
「面白ぇ。で、お前は何を賭けるんだ?」
「何でも。私で出来ることなら、何でも致しますよ。それでは、駄目ですか?」
「なら、キスでもいいか?」
「え?」
 シモーヌが思わず目を丸くすると、ジョルジュはフンと鼻でせせら笑った。
「フン、やっぱお子ちゃまには、たかがキスといえど、難しいか」
「いいですよ」
 その答えにジョルジュは、目を丸くした。
「いいのかよ?」
「ええ」
「挨拶のキスじゃなくてその……恋人同士がするようなやつだぞ?」
「どんなのでも構いませんよ」
 ニコリと微笑みながらシモーヌがそう言うと、ジョルジュは溜息をついた。
「絶対、分かってないよな、お前」
「まぁ……恋人はいませんから」
「そうなんだ」
 そう言いながら、ジョルジュは彼女に背を向けると、やったという表情になった。
「あの、それより、ジョルジュさんがもし負けた時のことなんですが……」
「何でも言いな! 俺がお前みたいなひよっこに負ける訳が無いんだ。何でも言うことを聞いてやるよ!」
「本当に何でもいいのですか?」
 座ったままのシモーヌが上目遣いに彼を見ながらそう尋ねると、彼は少し頬を赤くしながら咳払いをした。
「だけど、まぁ、その、なんだ……いきなり結婚してくれっていうのは、無理だぞ」
「言いませんよ、そんなこと」
 シモーヌはそう言うと、笑った。
 たちまち、むっとした表情になる、ジョルジュ。
「そうではなくて、今までジョルジュさんが他の方にとってこられた失礼の数々を謝って頂きたいのです」
「な、何だと!」
 彼は思わず声を荒げると、周囲を見た。
 いつの間にか、一同の目が自分に釘付けになっている。
「か、構わねぇよ。俺が負けることなんか、無いんだからな」
 そんな周囲の目を見ても、ジョルジュは胸を張るとそう言った。
「そうですか。では、決まりですね。それでは………」