「まぁ、新婚さんですか。それはどうもおめでとうございます。道理で初々しいはずですね」
 小さなドン・レミという村の民宿に着くと、そこの女将が満面に笑みを浮かべながらそう言った。
「ここは小さな村ですので、戦火もさほど感じませんから、どうぞゆっくりしてって下さいね。お食事も決まった時間にお部屋にお持ちしますから」
 そう言うと、女将はバートとシモーヌの顔を交互に見比べながら、笑った。まるで、新婚なんだから、二人でいつまでも部屋でイチャつきたいだろうというように。
「お願いします」
 女将のその意が分かりながらも、バートは爽やかな笑みでそう答えると、わざと妻役のシモーヌの手を持ちあげて、ギュッと握り、微笑んだ。わざと、見せつけるように。
 シモーヌはといえば、それが「わざと」だと分かってはいたが、真っ赤になってうつむいてしまった。
「まぁまぁ、本当に仲のよろしいこと。若奥様も、何か困ったことがあったら、すぐ私に言って下さいね」
 そう言うと、女将はシモーヌの耳元で囁いた。
「シーツだけ替えたい時は、私に言って下さいね。旦那様が湯でも浴びてらっしゃる間に、そっとお渡ししますから」
 その言葉に、シモーヌは益々真っ赤になってしまい、返事をすることも出来なかった。

「……おい」
 そんなお節介な女将が案内した部屋から出て行くと、バートはすぐに服を脱ぎ始め、シモーヌを呼んだ。
「は、はい!」
 ビクンと過剰に反応して、声まで大きくしてしまったシモーヌを見て、上半身裸になったバートは苦笑した。
「お前までそんなに緊張して、どうする?」
「そ、そうですね……」
「おい。右手と右足が一緒に出てるぞ」
「あああ、あの、その……」
 まだパニック状態のシモーヌに、バートは溜息をついた。
「包帯を替えて欲しいんだが……」
「あ、はい!」
 やっと普通の状態に戻ったシモーヌがそう返事をし、バートに近付いてその包帯を外し始めると、バートがニヤリとした。
「誰かさんのせいで昨晩、無茶し過ぎたから、だいぶ緩んでるだろ?」
 その言葉に、規則正しく動いていたシモーヌの手がゴチャゴチャになってしまった。
「本当に分かりやすい奴だな」
「え? えええっ……」
 益々慌てて、包帯がぐちゃぐちゃになるのを見ながら、バートは再び苦笑した。
「そんなに分かりやすい態度をとられちまったら、我慢出来るものも我慢出来なくなるぞ?」
 そう言うと、彼は自分の包帯を何とかまともに巻こうとしていたシモーヌの手を取った。