大きな紋章の入った門には、蔦が絡まっていた。
 そこを抜けて、白い壁の屋敷の中に入ると、ヨウジイは溜息をついた。
 その息が少し白くなった所から見て、屋敷の中は寒いらしかった。
「帰ったか」
 まだマントを脱いでいる時に彼にそう声をかけたのは、そのホールに繋がる大きなドアを開けてやってきた男だった。金髪碧眼で長身。しかも、少しくぼんだ青い眼がキラリと光る、なかなかの美青年だった。
「これは、リッシモン様」
 ヨウジイはそう言うと、軽く頭を下げた。
「どうだった?」
「それがその……傭兵の男と一緒におられたようで……」
「何を言っている? 私は、無事に出発したかと聞いておるのだぞ?」
 リッシモンのその言葉に、ヨウジイは思わず顔を赤くして、頭を下げた。
「も、申し訳ありません!」
「いや……あいつが男といたというのなら、お前が動揺しても仕方あるまい」
「り、リッシモン様……」
 その名を呼ぶヨウジイの表情は、今にも泣きそうに見えた。
「では、いよいよ元帥の地位に戻られるのでございますね?」
 すると、リッシモンは苦笑した。
「そうそううまくはいかんだろう。今の陛下は、戦自体あまりお好きでなられぬ上に、私のことも疎まれておられる」
「ですが、それは、あの薄汚い鼠のせいでございましょう? リッシモン様のお心をお知りになられれば、きっと……」
「ヨウジイ、希望的観測で物を言うものではない」
 少し奥に入った綺麗な青い眼でキッとヨウジイを睨みつけると、ヨウジイは哀しげな表情のまま、彼に近寄った。
「ですが、リッシモン様、あいつさえいなければ、今頃……」
「そういうラ・ムトレイユを陛下に推薦したのも、この私だ。私に人を見る目が無かったということなのだろう」
「リッシモン様……」
 泣きそうな表情で彼を見詰めるヨウジイに、美青年は微笑んだ。
「もうそのことはよい。少し休んでくるがいい、ヨウジイ。昨晩からどうせ、休んではおらぬのだろう?」
「ですが、戦の準備をなされるのでしたら、私も……」
「私の副官はお前だけではないぞ? まぁ、一番戦場でも役に立つのはお前だがな」
 その言葉に、ヨウジイは頭を垂れた。
「分かりました。少し休んで参ります。頭を冷やした方がいいと、自分でも思っていますし……」
「それだけ自覚があるのならよい」
 彼がそう言った時だった。