「お前には言いませんでしたが、そういう仕事もあったのですよ」
「どういう仕事だよ?」
「売春婦の護衛ですよ。しつこい客に言い寄られている女をその客から守る、というね」
「それで……」
 ジョルジュはそう言うと、安心したのか、溜息をついた。
 それを見て、マルクは微笑んだ。
「まさか、私が買いに行くはずないでしょう?」
「……だよな」
 ジョルジュはそう言うと、ほっとすると同時に少し哀しげな笑みを見せた。
 彼と兄のマルクは、母親が違っていた。言葉遣いからして乱暴なジョルジュの方が正妻の子供で、マルクは父が娼婦に産ませた子だったのである。これを知っているのは、今となっては、彼ら二人だけとなっていたが。
「まぁ、年齢的には、行ってもおかしくはないですが、護衛以外でわざわざ行こうとは思いませんね」
 マルクがそう言った途端、ジョルジュが目を吊り上げて叫んだ。
「当たり前だ! 兄貴がそんな所で女を調達してこないと駄目になっちまったら、あの世の父さんと母さんに顔向けが出来ないからな」
「ジョルジュ、ある程度大人の男なら、一度位そういう所に行っても……」
「駄目だ! 母さんが亡くなる前、そういう所には行くなと言ったのを覚えてないのかよ?」
「それは……」
 そう言うと、マルクは困ったように顔をしかめた。
 意味が違ったと思うんだが……。確か、あの時、母さんが言ったのは「父さんが亡くなって、暮らしが益々厳しくなるけれど、私はあんな所に行ったりしないから、あんた達もそのつもりで、貧しくとも誇りを持ちなさい」ということだったと思う。まぁ、まだ小さかったジョルジュが覚えている訳は無いんだろうが、それにしても……。
 そう心の中で呟くと、マルクはチラリと弟を見た。
 彼はまだ、腕を組んで兄を見ている。
 これじゃ、どっちが兄なのか分からないな……。
 マルクは心の中でそう呟くと、思わず苦笑した。
「何だよ? 何か文句でもあるのかよ、兄貴?」
「いや、無い。ただ、これじゃ、どっちが兄なのか分からないと思ってな」
 すると、何故かジョルジュは上機嫌になった。
「まぁ、俺も何時までも子供じゃないってことだよ」
 そう言うジョルジュは、誇らしげだった。