ざわっ。
 余程評判が悪いのか、人目を惹く、すらりとした美少女が一番奥で一人で飲んでいるジョルジュの席に向かうと、そこにいた者達は一斉にそちらを見た。
 中には「関わらねぇ方がいいのによ」と小さな声で言う者もいた。
「ここ、いいですか?」
 ふてくされたようにむこうを向いているジョルジュに、可愛い声でシモーヌがそう尋ねると、それを見もせずに彼は答えた。
「いいけどよ、何でわざわざ俺の所なんかに来るんだ? 他にもお前のことを可愛がってくれそうな連中はいるだろうが」
「そうですね。でも、私は、もう少しあなたと話をしてみたくなったんです」
「けっ。俺は、酒が飲めねぇやつとは、話さねぇよ! どうせそれ、スパークリングワインか何かだろ? そんなお子ちゃまの飲み物を飲むような奴なんかと……」
 彼がそう言いかけた時、その手の中に収まっていたはずのジョッキが消えた。
「え……?」
 驚く彼の目の前で、大きなそのジョッキに半分位残っていたビールを飲み干した。
「な、何だ? お前、飲めるんじゃねぇか!」
 ジョルジュがそう言うと、シモーヌは少し咳をした。
「苦い……」
 そして、思わずそう呟き、顔をしかめる彼女に、それまで不機嫌そうな表情をしていたジョルジュも、思わず噴き出した。
「お前さ、お子ちゃまなんだから、無理すんなよ!」
 そう言いながら、彼が彼女の背中を軽く叩くと、彼女は彼を見た。
 すぐ目の前にその綺麗な顔立ちを見て、思わずドキリとするジョルジュ。
「な、何だよ?」
「意外と優しいのですね」
「ち、違えーよ! そんなんじゃないっての!」
 顔を赤くしてそう言いながらも、彼は彼女から距離を置こうとはせず、チラリと彼女を見た。