コンコン。
 階段を上って、突き当たりのドアをノックしたが、すぐには返事が無く、仕方が無いのでもう数回ノックすると、やっと眠たそうな声が聞こえた。
「はい……。ああ、今日は出掛ける日だったな……」
「大丈夫なのか、バート? まだ胸が痛いんじゃ?」
 そうドアのむこうでジョルジュが尋ねた時、そのドアが開き、まだ寝ぼけ眼(まなこ)な上に、少し寝ぐせのついているバートが現れた。
 上半身は裸だったが、そこには包帯が巻かれていた。
「そうも言ってられないんだ。仕事だからな」
「じゃあ、もう出られるか? 下に馬車が待ってるらしいけど……」
「ああ。すぐ上を引っかけて出る。……おっと、その前に……」
 バートはそう言いながら、ベッドの脇に戻り、椅子にかけていた上着のポケットをまさぐった。
「ここの払いなら、既に終わったみたいだぜ。黒マントの東洋人の男が払ってたからな」
 そう言ったジョルジュがふとベッドの上を見ると、金色の短い髪が見えた。背中は毛布にくるまっていたので見えなかったが。
 金髪の男……? 少年って感じか? まさか、バートがそういう趣味だったとは……。まぁ、可愛がってた妹が死んで、しばらく落ち込んでたから、ソッチに走ったのか? ……ってことは、シモーヌはフラレた……?
 そこまで考えた時、ジョルジュの顔が赤くなってきた。
「じゃ、俺、用事があるから、もう行くよ。あんまり迎えを待たせるなよ、バート!」
 ジョルジュはそう言うと、急いでそこを後にした。
「ああ……」
 彼の背中を見送りながら、そう呟くように言ったバートは、ちらりとベッドを見た。
「まさかな……」
 バートは呟くようにそう言うと、ドアをちゃんと閉めた。
「もう行きました?」
 そう尋ねたその声は、紛れもなく少女のものだった。
「ああ。どうもその髪を見て、他の女か何かを連れ込んだと思ったらしいぞ。帰って来たら、又、追いかけられるかもしれないな」
 バートが苦笑しながらそう言うと、シモーヌも微笑みながら起き上った。
 下着すら身につけていないので、慌てて下着を取ると、ついたての後ろで着替え始めた。
「今はゴタゴタを起こしたくないので、マントか何かを貸して頂けますか?」
「もうジョルジュはその辺にいないと思うぞ?」
「念の為、です」
 シモーヌのその言葉に、自分も着替えの真っ最中のバートは、溜息をつきながら、灰色のマントを投げた。