チュン、チュン……。
 小鳥のさえずりが、朝の訪れを告げている。
 太陽も昇り、朝の新鮮で、澄んだ空気が辺りを支配していたが、バート達が休んでいる宿屋では、階下で明け方近くまで飲んだくれていた男達がいたせいか、静まり返っていた。
 そんな中、黒いマントとフードに身を包んだ男がフロントにやって来て、呼び鈴を鳴らした。
「はい?」
 まだ眠そうな表情の女将らしき女が出てくると、男はフードを脱がずに低い声で言った。
「ここにバートという男が泊っているはずなんだが、起してくれないか。出発の時間だからと言って。それと、ここの払いは、私が持つ」
「おや、そうかい」
 女将はそう言うと、目を大きく見開いた。
「あいつ、怪我をしてたんで、医者を呼んだんだけど……」
「それも払う。いくらだ」
「いいねぇ、そういうの」
 女将はにやりとすると、金額を紙に書き、男は黙ってマントの内側から袋を出した。
「それで足りるだろ」
「少し多いね」
「又、世話になると思うから、その時は宜しく頼む」
「払いがいい客なら、何時でも大歓迎さ!」
 女将はそう言ってニヤリとすると、フロントのカウンターの下から鍵を取り出した。
「じゃ、起こしてくるよ」
「ああ、頼む。玄関に馬車を待たせてるので、そこで待ってるから」
「待てよ」
 それまで二人のやり取りをフロント前の椅子に腰かけてうつぶしていた男がそう声をかけた。
「俺が行くよ。バートに用事があるからな」
「そうですか? では、お願いします。私は、馬車の方を確認してきますので」
 そう言うと、黒マントの男は、軽く頭を下げた。
 その時、チラリと黒いフードの下から少し日焼けした顔が見えた。どう見ても、東洋人っぽい顔が。
 ヨシマサの知り合いか……?
 ジョルジュは、昔から世話になっているカレンの少し融通の利かない恋人の顔を思い出したが、すぐに階段を上って行ったのだった。