「まだ聞いてないことがある」
「何でしょう? 兄のことですか?」
 シモーヌがそう言いながらベッドに近付くと、彼は珍しく、困った様に少し視線を下にずらした。
「いや、その……賭けのことだ」
「ああ、ジョルジュさんのことですか」
 そう言うと、シモーヌはゆっくりベッドの端に腰かけた。
「一応、謝ってたみたいでしたよ。周囲の方達もマルクさんに免じて許してやるって感じでした」
「そうか……」
「あの、そんなに心配なら、本人を呼んで来ましょうか? 話したいこともあるでしょうし……」
「いや、いい」
 だが、あっさりバートはそう答え、そのくせ、シモーヌと視線を合わせなかった。
「でも、そんな風には見えませんよ?」
「まぁ、本当に聞きたいことは、そのことじゃないからな」
 バートはそう言うと、苦笑した。気のせいか、少し顔が赤かったが。
「そうなんですか?」
「ああ。その……キスはしてないんだな?」
「え?」
 シモーヌは思わず高い声で聞き返し、その自分の声に驚いて、思わず口を手で覆った。
「えーと……」
 数秒後、いつものトーンで彼女がそう言いかけると、バートは溜息をついた。
「賭けには勝った訳だから、恋人のようなのはしてないってことだよな?」
「ええ、まぁ……」
「何だ? したのか?」
 バートが身を乗り出してそう尋ねると、シモーヌは笑い出した。
「してませんよ!」
「じゃあ、何故……そんなに笑う?」
 少し頬を赤らめながら、12歳年上の男がそう尋ねると、シモーヌは微笑んだ。
「だって、バートさんがそんなことを心配して下さるから。大丈夫ですよ、キス位」
「位、じゃないだろう! 挨拶でする軽いものもあるとはいえ、女にとって、そういうのは大事なはずだ!」
「まぁ、確かに……」