「まだ若いとはいえ、そういう経験が無いのか? まさか、修道院で育ったとか?」
「いえ、屋敷で育てて頂きましたが、兄とヨウジイの他、屋敷の使用人以外とはあまり会わずに育ちました。あの……変ですか?」
「いや、まぁ、貴族のお嬢さんっていうのは、そういうものなんだろうが……はぁ。何から説明すればいいんだ?」
 バートが頭を抱えながらそう呟くように言うと、シモーヌは泣きそうな表情になった。
「ご迷惑ですか? こんな変な娘に慕われるのって」
「あ、いや、そこまでは言ってないぞ」
「じゃあ、構いませんか? 想うだけで、何も望んだりしませんから、傍にいても構いませんか?」
 泣きそうな表情で、じっとバートを見詰めながらそう言うと、シモーヌはベッドの端に腰を下ろした。
 ……こんな綺麗なのに、無垢な女の子にじっと見詰められて、そんなことを言われて、断れる男がいたら、顔が見てみたいぜ。
 バートはそんな彼女をチラリと見て、心の中でそう呟いたが、その内心の動揺を隠す為に、深呼吸をした。
「バートさん?」
 駄目だと思ったのか、シモーヌが少し身を乗り出してその名を呼ぶと、彼は珍しくはにかんだ笑みを浮かべた。
「あ、いや、大丈夫だ」
「それは、別に想うだけなら構わない、ということですか?」
「ああ。まぁな……」
「ありがとうございます! ご迷惑にならないようにしますので!」
 パッと頬を赤く染めてそう言うと、シモーヌは立ちあがった。
「迷惑ではないが……」
「ジョルジュさんのことですね?」
 コホンと少しわざとらしい咳払いをしてバートがそう言うと、シモーヌは頷きながらそう尋ねた。
「え?」
 これには、バートも目を丸くしたが、勘違いしている少女は一人で暴走した。
「分かっています。すぐに追いかけて、フォローしてきます。マルクさんだけでは大変かもしれませんし……」
 そう言ってドアの方に向かおうとした時、ベッドから伸びた逞しい腕がその手を捕えた。
「バートさん?」