「い、いけなかないけど……俺は、君よりずっと年上だぜ?」
「でも、兄上より五歳年下なんですよね? だったら、そんなに離れてません」
「でもな、俺は29で、君はまだ17……」
「子供ということですね……」
 シモーヌはそう言うと、うつむいた。
「い、いや、そういう訳じゃ……。もっと年が近い奴だっているし、あの東洋人の男もゾッコンみたいだし……」
「この間、助けて下さったバートさん、本当にカッコよかったです。本当に素敵で、男らしい方だって思いました。こんな方の傍にいられたらいいなって思う位……」
 ゴトッ。
 彼女が懸命に自分の想いを言葉にした時、ドアのむこうで音がした。
「まさか……」
 そう言いかけて、バートがベッドから起き上がろうとすると、それより先にシモーヌが立ちあがって、ドアを開けた。
 バタバタという足音がして、階下に降りて行く姿がほんの一瞬だけ見えた。すまなそうな表情をする、人の良さそうな青年の姿も。
「おい、さっきの男……ヨウジイだったっけか? そいつだったのか?」
 それを目で追い、シモーヌがドアの所に立っていると、彼女はそこに立ったまま、首を横に振った。
「じゃあ、誰だったんだ?」
 ベッドの上に起き上がりながらそう尋ねるバートに、シモーヌは振り返って困った表情を浮かべると、そっとドアを閉めた。
「どうやら、ジョルジュさんだったみたいです。マルクさんが申し訳なさそうにこっちを見て、降りて行かれる姿が見えましたので……」
「ジョルジュか……。あいつは、君に一目惚れしたみたいだったからな」
 そう言うと、バートはチラリとシモーヌを見た。
「気付いていました。だから、他の皆さんとの仲直りの橋渡しが出来れば、と思ったのですが……」
「勘違いされるとは思わなかったのか?」
 バートが苦笑しながらそう言うと、ドアの近くからバートの方にゆっくり歩み寄りながら、シモーヌは首を傾げた。
「勘違い、ですか……?」
「だから、君があいつのことを好きだとか……」
「そういうお話はしたことありませんが……」
 シモーヌのその言葉に、バートは頭を抱えた。
「したことなくても、あいつの態度を見て、誤解されたらどうしようとか、思わなかったのか? ややこしいことになるって」
「はぁ……」
 困った表情で少し首を傾げるシモーヌに、バートは思わず溜息をついた。