だが、そう思っただけでなく、自分の顔が少し赤くなったことまでは、気付いていないようだった。
「へ、へん! 戦場に出れば、顔だけじゃなくて、腕とかにも傷がつくっての! 何今更言ってんだよ、兄貴!」
 ジョルジュはそう言いながらも、少女から離れた。
「ジョルジュ!」
 金髪碧眼の背が高い兄は、そう弟の名を呼びながらも、彼を追いかけることはなく、少女の傍にとどまった。
「すまない。いつもはあんなんじゃないんだが……。お嬢さんが自分より年下だと思って、偉そうにしたかったんだろう。私は、兄のマルクだ。よろしく」
 そう言いながらマルクがシモーヌに手を差し出すと、彼女もニコリと微笑みながらその手と握手した。
「シモーヌです。よろしくお願いします」
 二人が仲良く微笑みながら握手をしていると、その背後で誰かが少しわざとらしい咳払いをした。
「マルク、嘘はいけないぜ、嘘は」
 そう言いながら後ろにいたのは、黒髪の逞しい青年、バートだった。
「嘘? 嘘などついていないぞ?」
「あんたのことじゃないよ。ジョルジュのことさ。いつもあんな感じだろ? 誰に対しても」
「そうなんですか?」
 そう尋ねたのは、シモーヌだった。
「ああ、そうさ。だから、君だけじゃない」
「良かった……」
 シモーヌはそう言い、ホッとした表情になり、バートが優しい笑みでそれを見詰めていたが、マルクだけは落ち込んでいるようだった。
「やはり、又そういう態度をとっていたのですか……」
「おいおい、そんなに落ち込むなよ、マルク。まぁ、酒が入ると酷くはなるが、いつもはまだ自重している方なんだからな」
 流石に不憫に思ったのか、バートがそう言いながらマルクの肩をポンと叩くと、彼は溜息をついた。
「いえ、酒が入っても、出来る限りトラブルは避けるべきなのです。それでなくても、傭兵は騎士団と違って評判が悪い。中には、民を脅して金品や女性をさらうなどという、不届きなことをする人もいるのですから……」
「そりゃそうだが、俺の見る限りじゃ、あいつがトラブル起してるのは、傭兵仲間だけみたいだぜ?」
「それも問題なのです。一緒に戦いたくないと言われたこともあるのですから……」
 マルクはそう言うと、溜息をついた。
「うーん……じゃあ、一度、一人で戦わせてみるっていうのは、どうだ? いつもお前が守ってくれるから、無茶するんだろ?」
「やはり、甘過ぎるのでしょうか?」
 マルクが困った顔をしていると、マスターからアップルタイザーを貰ってグラスで飲んでいた少女が二人から離れた。
「おい?」
 思わずバートが驚きの声を上げたが、少女は構わずに酒場の中を進んで行った。