「何だか、二人だけで盛り上がってるみたいだもの」
 そう言うと、シモーヌは二人の顔を上目遣いに睨みつけた。
「ご、誤解です、お嬢様! 私はこの方がお嬢様と親しいようなので、少し驚いただけで……」
「おいおい、俺とこのお嬢さんは、まだ数える程しか会ってないぜ? 戦場で一緒になったのも、この間が初めてだったんだし……」
「そうなのですか? その割には、言葉遣いがくだけているというか……」
 ヨウジイのその言葉に、バートはシモーヌを見て苦笑した。
「ああ、それはな、酒場で注意したんだよ。ああいうところでは、上品ぶってると絡まれやすいから、もう少しくだけた話し方をしろってな」
「そうだったのですか……」
 ヨウジイはそう言うと、安心したように溜息をつき、肩を落とした。
 が、すぐにシモーヌの方を見ると、今にも泣きそうな表情でこう言ったのだった。
「やはりお嬢様は、こういう場所にふさわしくないのではありませんか? 今からでも遅くありません。すぐにリッシモン様の下に戻りましょう。こういうことをする者が必要なのであれば、不肖、この私めが……」
「ヨウジイ……」
 シモーヌは低めの声で彼の名を呼んだが、彼女のことが心配でならない東洋人の男には、それが耳に入らなかったらしい。まだ独り言のように続けたのだった。
「きっと兄上様とて、このような場所とお知りになられましたら、心配でお止めになられるはずです。もしお叱りが心配なのでしたら、私も共に謝罪致します。ですから、もうお屋敷にお戻りになって下さい。私は、心配でならないのです」
「ヨウジイ!」
 語気を荒げて彼女が彼の名を呼ぶと、やっと彼は彼女を見た。すぐに顔を赤らめて、うつむいてしまったが。
「もう、何度言ったら分かるの? 私が探しているのは、女の子なの。男のあなたが行っても、警戒されるだけでしょう。同じ年位の私が行った方がいいに決まってるわ」
「しかし……」
「しつこい!」
 シモーヌがヨウジイを睨みつけてそう叫ぶと、彼はシュンとなって、うなだれた。
「えー、コホン」
 そこに、わざとらしく咳をして入ってきたのは、ベッドでまだ上半身を起こしているだけのバートだった。
「何ですか、バートさん?」
 シモーヌがそう尋ねると、彼はニコリと満足そうに微笑み、チラリとヨウジイを見た。
「そいつからの伝言、忘れないうちに言っておこうと思ってさ」
 その途端に、彼女とヨウジイの顔色が変わった。
「見つかったの?」
「ええ。おそらく、ロレーヌ地方のドン・レミという小さな村にいる娘がそうではないかとのことです」
「分かったわ。すぐに向かいます」
「これからか?」
「これからですか?」
 それは、バートとヨウジイの言葉で、ほぼ同時だった。