「ああ、その、リッシモンだ! 確か、結構お偉い貴族様じゃなかったか?」
「ええ。一度、元帥の地位までなられたのですが、去年追放されておられます……」
 ヨウジイはそう言うと、溜息をついた。
「そうだよな。俺もそういう話は聞いたことがあるよ。確か、戦争後の掠奪を嫌う、立派な方だと聞いていたんだが、今は飛ばされたとかって……」
「はい。政敵と知らず、陛下の為に推薦した方に裏切られたのです」
 そう言うと、ヨウジイは顔をしかめた。
「そこそこ年もいってるんじゃなかったか? 遠くからしか見えなかったが、若造には見えなかったような……」
「ええ。確か、今年で、34歳におなりのはずです」
「ってことは、シモーヌとは結構年が離れてるんだな?」
「ええ。お嬢様は、今度17歳におなりですので、親子と言えないこともないかと……」
「ヨウジイ、しゃべり過ぎですよ」
 聞き覚えのある高い声に、二人は思わず声のした方を見た。
 大きく開かれた窓に跨り、少し欠けた月を背にしていたのは、二人が気になっていた少女その人だった。
「お嬢様!」
「何で、そんな所から入ってくるんだ?」
 ヨウジイとバートがそう声をかけたのは、ほぼ同時だった。
 それに気付き、二人は顔を見合わせて、困った表情になった。
「すみません。お嬢様は、普段、このようなことはなさらないのですが……」
「しょうがないでしょ。ジョルジュさんとマルクさんに見つかりたくなかったんだもの」
 そう言いながら窓から中に入って来て、服についた汚れをはたいて落す少女に、バートは溜息をついた。
「又、ジョルジュがキレたのか?」
「マルクさんが止めてくれたのですが、そしたら、今度は兄弟喧嘩になっちゃたみたいで、面倒なので途中で逃げてきました」
「そりゃ、災難だったな」
 バートは苦笑すると、二人の顔を見ているヨウジイに言った。
「あんたのお嬢さんに他の傭兵への伝言を頼んだだけだよ。あんたが心配することは、何も無い」
「そうですか……」
 すると、シモーヌが腕を組んで口の端を引き攣らせた。
「随分、二人とも親しくなったようね?」
「え?」
 その言葉に、バートとヨウジイは顔を見合わせた。