「ああ。よく知らないが、庇うのは庇って、このザマだ。カッコ悪いよな」
 バートが苦笑しながらそう言うと、男は首を横に振った。
「いえ、とんでもない! こちらとしては、お嬢様にお怪我が無かっただけで、有難いです! 本当にどれ程お礼を申し上げても、足りない位で……」
「世辞はいい」
 バートは右手を軽く上げると、そう言った。
「大体、あんたの用事はそんなことじゃないんだろ?」
 その彼の言葉に、益々東洋人の男は目を丸くした。
「あの子からは、さるお方の密命を受けて、ある娘を探していると聞いてる。あの子自身が、そのリッシモンって人の関係者で、お嬢様だっていうんなら、きっと、そのさるお方っていうのは、かなりお偉い人なんだろうっていうのも、察しがつく」
 そのバートの言葉に、東洋人の男はゴクリと唾を飲み込んだ。
「貴方は、その……」
「信用していいぜ。今のところはな。あの子……シモーヌを悲しませる気は無いからな」
 バートのその言葉に、東洋人の男は頷いた。
「では、ロレーヌのドン・レミとお伝え下さい。詳しいことは、又、追って知らせると」
「ロレーヌのドン・レミか。聞いたことないな。小さい村みたいだが」
「ええ、とても小さな農村だと聞いています」
「詳しいことは分からないが、伝えておくよ」
「お願いします」
 男はそう言って頭を軽く下げると、ハッと気付いたようにこう言った。
「遅ればせながらですが、私はヨウジイと申します」
「俺は、バート。バート・ランカスターだ」
「ランカスター?」
 男が聞き覚えのある家名に目を丸くすると、バートは苦笑した。
「違う、違う! あの王族共とは関係無いぜ! 町の名前がロンカストラだったんだが、それがランカスターって言われるようになったんだ。王族がその辺りまで来るようになって、うちの名も言いやすいように変わったって聞いてるが、じいさんの代まで農民だったって聞いてるぜ」
「そうですか」
 そう言うヨウジイの表情は、どこかほっとしたものだった。
「ほっとしたな? 本当に分かりやすい男だな」
 そう言ってバートが再び苦笑すると、ヨウジイは驚いて思わず自分の頬を撫でた。
「そ、そうですか? これでも、リッシモン様にもお嬢様にも気付かれてないと思うのですが……」