「チッ!」
 舌打ちすると、ジョルジュは近くの茂みを蹴飛ばした。
 ザッという音がして、その茂みの葉が何枚も落ちたが、それを見ながらジョルジュは吐き捨てるように言った。
「やっといい奴に会えたと思ったのによ!」
「分かったから、そういう態度は止めなさい、ジョルジュ」
「何でだよ! お貴族様に乱暴者は似合わないってか?」
「そうですよ!」
 普段あまり感情を表に出さず、他の人にも出来るだけ丁寧に接しているマルクにしては珍しく、語気が強かった。
「……どうせ俺は!」
「乱暴だという自覚があるなら、自重しなさい。もし、彼女がお前に興味を持ってくれても、そんな調子のままでは、迷惑をかけるだけですからね」
 そのマルクの言葉に、何故かジョルジュは目を丸くして、彼を見た。
「ひょっとして兄貴、さっき、あいつを俺に渡せないって言ったのって、今のままの俺じゃ、あいつに迷惑をかけるだけだと思ってのことだったのか?」
「そうですよ。他に何があるっていうんです?」
「ごめん……。俺、てっきり、兄貴もあいつのことが好きで、それで俺達の邪魔をしてるんだと思ってた……」
 すると、マルクは微笑んだ。
「それも、少しはありましたよ」
「あ、兄貴?」
「言ったでしょう。彼女は美人の上に、可愛いって。私も多少は、惹かれてるんです」
「そんな……」
 ジョルジュが珍しく泣きそうな表情になると、マルクは微笑んだ。
「大丈夫ですよ。彼女がジョルジュを選ぶというのなら、邪魔はしません。二人の幸せを祈るだけです。でも……」
 そう言うと、マルクは微笑むのを止めて、弟を睨んだ。
「迷惑をかけるだけなら、許しませんよ」
 ゴクリ。
 思わずその雰囲気に、ジョルジュは弟だというのに唾を飲み込んだ。
「分かったよ……。気をつける」
「なら、いいのです」
 マルクはそう言うと、再び微笑んだ。
 いつも丁寧な口調と柔らかい物腰なだけに、怒らせると怖そうなマルクをチラリと見て、ジョルジュは溜息をついた。