「な、何ですぐに言わねぇんだよ!」
 そう詰まりながら言葉にしたのは、数秒経ってからのことだった。
「彼女をジョルジュから離したかったからですよ」
 マルクのその言葉に、再びムッとするジョルジュ。
「どういう意味だよ、それ? まさか、兄貴もあいつのこと……」
「好きですよ。美人ですし、性格も可愛いですからね」
 あっさりそう言うマルクに、ジョルジュは焦りの色を隠せなかった。
「ちょ、ちょっと待てよ、兄貴! それじゃ、兄貴が俺のライバルになるってのか?」
「彼女はそういう目で見てませんから、ライバルになるかどうかは分からないですがね」
「そ、そうなんだ……」
 そう言うと、ジョルジュは少しホッとした表情になったが、すぐその後のマルクの言葉で引き攣ってしまった。
「まぁ、ジョルジュのこともそういう目で見ているとは思えませんがね」
「どういう意味だよ!」
「そういう意味です。それとも、好かれているとでも思ってましたか?」
「それは……」
 これには、流石の彼も「そうだ」と断言することが出来なかった。
「彼女が騎馬以外で一緒に出ると言ったのは、そういう意味じゃないことは分かってますね?」
「それは……」
 そうじゃないかとは、思っていた。だが、ひょっとしたら、少しは男として見てくれているのかもしれない。今はそうじゃなくても、共に戦場に出ているうちに男として見てくれるのかもしれないとも思っていた。
 だが、今はそれを口に出来る雰囲気ではなかった。そんなことを言おうものなら、兄に「だから、子供だと言うんです」と言われかねなかった。
「分かってればいいんですよ」
「………。兄貴は……」
 小さな声でそう言いかける弟を兄がチラリと見ると、彼は兄を見ずに続けた。
「兄貴は、それでいいのかよ?」
「え?」
 思ってもいない言葉だったのか、マルクは目を丸くしながら聞き返した。
「兄貴は、男として見てもらってないままで、いいのかよ?」
「私はいいですよ。まだ出会ったばかりなんです。ゆっくり時間をかけて、私という人間を分かってもらおうと思ってますからね」
 その兄の答えに、弟は顔をしかめた。自分は嫌だ、待ってられない! と思っているようだった。
「それに、あの子にはあの子には事情がありそうですし……」
「事情……?」
 ジョルジュは思わず兄の言葉に、目を丸くした。
「気付かなかったのですか? あの子はあの酒場に着た時、丁寧な言葉遣いをしていたでしょう? それに、あの乗馬服。私達がどれだけ働いてもなかなか買える代物じゃないでしょう。傭兵稼業でどれだけ稼いでも、あんな良い仕立てをしてくれる所は無いでしょう。おそらく、お抱えの仕立て屋がいるような家かと」
「それって……貴族ってことか?」
 そう尋ねるジョルジュの表情からは、怒りなどは消え、怖れのようなものが感じられた。
「おそらく」